2015年10月20日火曜日

今の本当の感情を心を込めて体験する

Column 2015 No.29

以前、私の講座を受講下さった、S.Mさんの受講後の感想文が心に残っています。了解のもとに一部抜萃致しました。

 「…2回目の講座で、インストラクターがこう言われました。“明るいことがいいことって誰が決めたのですか…”と。そしてこう続けられました。“人間は落ち込みたいとき、落ち込んでおきたいのです。落ち込みを続ける権利も、這い上がる権利もその人にあるわけで、それを第三者が明るくあれ!という権利はありません”…と。インストラクターのこの言葉は、私の心をとらえて放しませんでした。その時は何故なのかはよく分かりませんでしたが…。

 …3回目の講座が終わって数日後、主人が私に投げ掛けた言葉に対して、私は明かるく元気よく“うん!”と応えました。応えたあと、自分が疲れていることにふと気がつきました。その瞬間インストラクターの言葉が、なぜ自分の心に焼き付いたのか分かりました。私は明るいことは良いことだ。暗いのは駄目なのだ…という価値観にずっと縛られていたのです…。

 …それで自分にも周りの人々にもこの価値観を強要してきました。だから主人の投げ掛けた言葉に“うん”と返事をするだけで充分なのに、“うん!”と明るく元気よく返事をしていたのです。しかしその元気は本物の元気ではなく、カラ元気。無理をしていたから疲れたのです。返事をしただけで…。

 …自分を縛っている価値観に気づき、“暗いことがあってもいい。落ち込むことがあってもいい。怒ることがあってもいい…”と心の底から思えたとき、気持ちがとても楽になりました。その日から少しずつ自分が変わっていくのを感じました。自分が負の感情を抱くことを自分に許した時から、周りの人が落ち込んだり愚痴を言ったりすることも、許せるようになっていきました…。自分が暗いムードに巻き込まれるのが嫌で、一言だって聴きたくない主人の愚痴も、聴くのが苦手ではなくなりました…。そう思うようになってから主人も色々なことを話してくれるようになり、夫婦の絆が深く太くなったと思います…」 (以下略)

 S.Mさんの感想文はまだ続きますが、ここまでにしておきましょう。S.Mさんの深い気づきと変化に驚きました…。さて私たちは、明るく元気でいつも笑顔でいることがいいことで、暗かったり元気がなかったりすることはよくないこと…と、何故決めてきたのでしょうか…。

 それはおそらく、私たちは他者の笑顔を見ると心地いいし、逆に沈んでいる人を見ると心が重くなるからかもしれませんね…。 だから親たちは、わが子が泣くと「やめなさい!」 怒っていると「いつまで怒っているの!みっともないわよ!」…と、他者の目に“受けがいい”ようにと、子どものネガティブな感情表現にはとても神経質に接してきたようです。その子の、今の本当の心の状態は、全く見ていなくて、“いつもスマイル!スマイル!ね”…と。 それによって、子どもたちは大人になるまでに、ネガティブな感情はいけないことで、みっともないことなんだ…と学んで大きくなったのではないでしょうか。

 本当にネガティブな感情表現はよくないのでしょうか…。これまでもコラムで何度か取り上げてきましたが、ネガティブな感情を抑えることは “人間をやめなさい!” ということと同じです。悲しい時は大声で泣き、苦しい時は喘ぎ、腹が立ったら怒りの感情を発するから、その感情は抑圧されることなく、そこで昇華されるわけです。不安恐怖の感情も実は私たちを守ってくれているのです。時間があるときにコラムNo18あたり、ぜひ読んでみて下さいね。

 親業では、自分のその時その時の感情を感じていくことを、とても大切にしています。 感情に“いい・悪い”はないのです。自分の感情をきちんと感じ取っていくから、喜びを表現できるし、悲しい時や困った時にも、正直に自己表現できるのです。ただひとつ、とても大事なことがあります。自分の感情を支配できるようになることです。それが自立した大人の条件でもあります。

 幼いころから、正直な感情を大切に扱ってもらって大きくなった人は、自然に自分の感情を支配できるようになっていきます。受講者Hさんの事例です。
Hさんには二人の男のお子さんがいます。また今朝も、ちょっとのことで二人の喧嘩が始まりました。

兄「ケンが僕のほっぺをつねったあ!ゆるさん!」
母「そう!痛かったねえ!」
弟「兄ちゃんが先にブロックで頭たたいたんだよ!あ~ん!…」(泣き始める)
母「そうかあ!先にたたかれて腹が立ってほっぺつねっちゃったんだねえ…」

 最終的には二人の兄弟はまた近寄って遊び始めます。お母さんはどちら側にも就かず、ただそれぞれの言い分(感情)を大切に、そのままフィードバックしているだけです。親業ではこのような共感的な対応をとても大切にしています。感情をそのままに受け取ってもらえるだけで、誰でも前向きに生きれるのです。

 Hさんは泣いたり怒っている子どもを、たしなめてやめさせるのではなく、今、その子が味わっている感情を大切にして、そのままを受け取ってあげているのです。泣きやめる権利も、泣き続ける権利も尊重してみているのです。その結果、子どもは自分の激しい感情がそこで昇華されるだけでなく、親が子どもの感情をそのままフィードバックすることによって、子どもは自分の感情を意識化するので、徐々に自分自身の感情の動きに気づき、自分で自分の感情がコントロール出来るようになっていくのです。勿論、親業ではここぞと思うところではお母さんの思いを伝える側面もあります(コラムNo11

 一方、世の中にはとても「感情的な人」も多いですね。街中で、罪のない住民を相手に怒りをぶちまけている人、ちょっとお酒が過ぎると、周りの人々に嫌がらせを言って迷惑がられている人、子どもや妻のひとことが気に食わないと言って、暴言暴力を振るう人…等々。

 「感じる人」は自分の感情を支配できている人です。ところが「感情的な人」は感情の方に支配されている状態です。感情的な人の多くは、幼いころから感情を大切に扱われなかったために、潜在意識に怒りや恐怖や、不安の感情が抑圧されており、ちょっとのことで沸騰してしまう…。それだけではなく、共感もなかったために、自分の感情に気付けないままに成長したので、自分の感情が支配できず、逆に感情の方にコントロールされてしまっている状態です。彼らにとっては、それが今を生きていくための無意識のバランスですが、本来は、大人になるまでに、自分の感情は自分で支配(コントロール)出来るようになっておくべきなのです。

 S.Mさんは気づかれました。明るいことはいいことで、暗いのは駄目だ…という自分を縛っていた価値観に気づき、負の感情…つまり怒りを感じたり、自信を失って落ち込んだり…の感情をも、正直にキャッチして、感じることを自分に赦すようになられました。このように、自分の今の感情(心)の位置が意識化できたら(これが受容であり赦しの形です)あとは、自分のために笑顔で明るくふるまうことも、心が喜ぶことをして気分転換することも、実はとても大切なことなのです。自分が自分の人生を創るのですから、明るい思考が明るい人生を引き寄せ、暗い思考は暗い人生を引き寄せるという原則も実は真実なのです。

 いわゆる今注目の、その「引き寄せの法則」は確かに真実で、力がありますが、こわい落とし穴があります。ポジティブ思考が強調されるあまりに、自分の中の真実を見落としていく怖さです。一時期ポジティブシンキングセミナーも随分流行を見せていましたが、多くはうまく起動しない筈です。何故なら、自分の本当の感情(心)の位置をごまかして、見ないふりをして “ポジティブ思考!”   と叫んでも、自分の内面の真実は、決してごまかせないのです。実は本当の自分からブレることが一番怖いのです。ブレたまま明るさを演じても、内面の本当の真実の方が起動してしまうわけです。

今のほんとうの感情を、心を込めて経験する

 自分の本当の感情からブレないで、感じ切ることこそが、生きている実感であり、自己理解のベースでもあります。その感情を感じている自分そのままを赦し、情けない自分そのまんまで(コラムNo22)堂々と自分の望む人生を、選択していきましょう。そしてより実感ある人生を構築していきたいものですね!


*次回のコラムは11月20日前後の予定です。