Column 2016 No.34
仕事で出会う人は勿論、あらゆる人間関係で沢山の出会いがありますが、一人ひとりの中に必ず“男性性”と“女性性”の双方の性質があることがよく分かります。そのバランスが均衡をもっている人もあれば、どちらかの性質に偏っていて、それぞれがその人の個性となっていることを感じます。「森羅万象・宇宙のあらゆる存在は相反する“陰と陽のふたつの「気」”があって、“男性と女性”もそのひとつ。その陰陽の双方が調和してはじめてひとつの完全な要素となる‥‥」東洋医学を学んだ祖父がよく語っていたことです。
その考え方から辿っていくと、確かに私たちの日常に於いてもその陰陽が色々な形で現れているのが解ります。昼と夜・夏と冬・晴天と雨天・吸気と呼気・母性と父性‥‥等々。また“仕事と休息”“睡眠と覚醒”“傾聴と自己表現”…等々。そしてそのどちらが“いい・悪い”ではなく、その双方共に欠くことはできない、私たちはその陰陽によって生かされているとも言える大変大切な要素だということがわかります。
また、人の身体のリズムを“バイオリズム”という観点から説明をしている仮説があります。身体の生理状態・感情の波・知的働き‥‥にも高調期と低調期の一定の周期的パターンがあり、つまり陰陽のグラフで表される。つまり人間の身体や精神状態も、上向きばかりでもなく下向きばかりでもなく、陰と陽の状態が一定の周期でもって繰り返されているというわけです。
「親業」を日本に導入した近藤千恵(前理事長)は“ひとりの親の中に父性と母性を…”と提言しました。親業は有効なコミュニケーションを訓練していく講座ですが、コミュニケーションの側面から言っても、実は“母性的側面と父性的側面”があるのです。これまで子どもを育てる上でよく言われてきたことは、“父親としての役割・母親としての役割”というふうに、両親が、役割分担的な考え方で、例えば、叱るのは父親役、守るのは母親役‥‥といった考え方が主流でした。しかし親業では、一人の親が“父性と母性”の両性の特性を併せ持つことの大切さをコミュニケーションの立場から提言しています。
受信(傾聴力)‥‥‥‥母性(女性)的側面
発信(自己表現力)‥‥父性(男性)的側面
ところが、この傾聴力と自己表現力の心地いいバランスを併せもっている人は少ないと感じます。多くの人が、効果的な「傾聴」効果的な「自己表現」とは何か…が解らない為に、知らず知らずのうちに破壊的なコミュニケーションになって、人間関係を難しくしています。例えば、八方美人的に生きている人は自己表現が苦手なので、聴く側にまわり、しかし傾聴力があるわけではなく表面上相手に合わせて聴いているので、いつも疲れています。一方、発信力があるように見えて、実は自己表現ではなく他者のことについて喋りまくるストレス発散タイプの人もあります。職場などでは敬遠されるタイプの人です。
傾聴(受信力)とは、相手が話している間は決して茶々を入れないで、本気で聴く。話している内容を含めて、その人を丸ごと受け入れて聴く姿勢です。一方、自己表現(発信力)とは他者について語ることはやめて、自分の思いを正直に率直に語ることです。何はともあれコミュニケーションには訓練が要ります。以上詳しいことはコラムNo10,11,12で詳しく取り上げています。
さて、私が今回テーマにした「ひとりの中に“女性性と男性性”のバランスを」としたのは、親になってからも勿論ですが、それ以前に、ひとりの中に女性の特質と男性の特質を併せ持つことこそが、人としての完成であり、真の自立の姿であると信じる所以です。勿論、男性と女性は体の構造も違い、男性が女性に、女性が男性になることはできません。しかし双方の特質を一人の中に融合させていくことならできます。優しさと強さ、包容力と行動力、感情的と論理性、婉曲性と率直性、受容性と毅然性‥‥等々。
しかし、女性が男性的側面を育て、男性が女性的側面を育てていくことは並大抵ではありません。しかし今、女性の意識改革は急務です。男性に対する劣等感と恐れを脱却し、依存傾向に気付き、決して対立するのではなく、男性の積極性・行動力を学び、しかし女性であることの誇りと自信をもって、率直に男性と対話をしたり、女性ならではの特質・力量を、職場でそして地域社会へと恐れず意思表示していく時代だと思います。いま地球を取り巻いている戦争・テロの脅威、貧困問題、人種差別‥‥等々。そこには女性的エネルギーが待たれます。
世界の飢餓撲滅のために教育や支援をエネルギッシュに進めている人権活動家のリン・ツイストさんは次のように話しています。
「‥‥アメリカの先住民が21世紀にに対する素晴らしい予言をしています。人類という鳥は、男女の翼があるにも拘らず、何百年何千年も男性の翼だけで飛んできた。その結果、男性の翼は発達し、筋力をつけて暴力的になり、片翼だけで旋回飛行いを続けて来た。しかし21世紀は女性が翼を広げ、両翼がバランスをとって、人類という鳥がまっすぐに上昇していく‥‥というものです。男性を悪者にせず評価した上で、女性が21世紀に適切な責任を果たしていくことを、このことは示唆しています」‥‥と。
2014年に史上最年少でノーベル平和賞を受賞した、パキスタンの若き人権活動家マララ・ユスフザイさんは「女性にも教育を!すべての子どもが学校に通う権利を!」と訴え続け、タリバンからの銃撃を受ける結果になりました。幸いにも一命をとりとめ、再び活動を展開しています。女性が賢くなり存在が認められることは、世界の平和実現にとって実に重要なことですが、残念ながら女性が賢くなることを恐れている人々がまだ沢山いるのです。
その誤解を解くためにも、意識改革を深めていきながら、まず女性がコミュニケーション能力(傾聴力と自己表現力)を磨き、智慧を養い、愛に裏打ちされた“包容力”と“行動力”をもって、徐々に活動範囲を広げていく‥‥。女性ひとりひとりの変容から、人類は徐々に女性的エネルギーを取り戻していくでしょう!まず家庭の中での変容、伴侶との適切な関係性、子どもへの教育‥‥などを通して草の根活動からの出発です。
女性の意識に、本物の変化が訪れるに従って、男性の中にも女性的特質を受け入れることが、もしかして抵抗なく実現していくのではないか‥‥そんな予感です。そこで人類の戦いも貧困も人種差別も、豊かなバランスの中で、徐々に収束に向かっていくのではないでしょうか。 私は今ほど女性のエネルギーが必要とされているとき(時代)はないのではないかと思えてなりません。だから、マララ・ユスフザイさんの次のメッセージにとても共感し心打たれるのです。
世界中の姉妹の皆さんにお願いします。勇気をもってください。
そんな力はないなんて思わないで! 自分には無限の可能性が
あるということに どうか気づいてください!