2017年1月20日金曜日

夢は大きく 失敗は大胆に

夢は大きく 失敗は大胆に
ノーマン・ボーン
Column 2017 No.44

 今年の年賀状のフレーズに取り上げたものです。年齢を重ねてもこのようなフレーズに出逢うと、何だか心がときめきます。でも本音を言えば、私が抱く夢は等身大だし、しかも失敗はやはり好きではありません(笑) だからこそ ”Boys be ambitious” 少年よ大志を抱け!(クラーク博士)のような言葉にわくわくしたり、今回のテーマのような勇ましいフレーズに心がときめくのでしょう。 

 失敗は大嫌いな私であるにも拘らず、本当はこれまでの人生、恥ずかしい失敗を数多く重ねてきた私なのです。いわゆる赤恥レベル級です…。あまり話したことのない忘れられない赤恥のひとつを、時効と判断し披露します(笑) 学生の頃、友達関係だった男友達のひとり、彼は私に対しては恐らく友達以上の感情は全くなかった。実は私の方が好意を持っていたことには私自身全く気付かず、相手が私に対して並々ならぬ恋をしていると勘違いをして勝手にことを起こし、途轍もない傲慢な態度で別れを切り出した!その時の彼の言葉と鳩豆状態の顔が思い出され、今も顔から火を噴きだしそうな恥ずかしさと申し訳なさで一杯です…。

 わたしの“恥歴”は枚挙にいとまがないくらいです。そんなことを感じていると、むかし子どもと一緒に読んだ「ドン・キホーテ」(セルバンテス作少年少女世界名作全集)が急に読みたくなって、まだ健在の書棚から黄色く変色したその一冊を引っ張り出して、お正月の合間合間に引き込まれるように再読したのでした。私と温度差があまりないように思えるドン・キホーテ。妄想癖のあるキホーテが風車を巨人だと思い込み、槍をもって全速力で風車に突撃していった…その断片的な下りだけは鮮明に覚えていたのですが、その他数々の突拍子もない騒動はすっかり忘れていたようで、わくわくと全篇読み通しました

 騎士道物語を読み過ぎて夢と現実の区別がつかなくなったキホーテは、自分がすっかり雄々しい騎士になったつもりになって、老馬にまたがり、家来のサンチョを引き連れて、世の中の不正を正すための旅に出掛けるのですが、まさに奇妙で滑稽極まるトラブル(失敗)の連続! 心打たれるのは年老いてもなお、夢や希  望を決して失わず、正義を胸に遍歴の旅を続けていくその一途さ。周りの人々は彼の常軌を逸する行動に呆れながらも、純心で一生懸命なキホーテを愛さずにはおれないのでした。まさに“夢は大きく失敗は大胆に”を地で行く人物なのでした。

 私とドン・キホーテの違いは、キホーテはどんなにまずいことをしでかしても、彼なりの論理(多くは妄想からの)があって、決してめげず、完璧なプラス思考!一方、私は…と言えば、時に妄想で行動してしまうところは彼と一緒でも、幸か不幸か、必ず正気に戻ってしまうところがつらい所で、赤恥をかいては苦しみ、こけては痛みを感じながら、そこで何かを学び今日まで生きてきたわけです。

失敗がないと人生に失敗する

斎藤茂太氏の言葉ですが、私にとっては救いの言葉です。失敗は確かに心が痛むものです。でも失敗を通してこそ、“真の目”は開かれていくのではないかという気がするのです。だから人は、無意識ですが自分にとって必要な失敗をしているではないか…と。その失敗を通して何かを感じ何かを掴んでいける! 特に以前はうっかり者でそそっかしかった私は(実は今もですが…)多くは失敗から学んできたような気がするのです。

 失敗と言えばもう一つの赤恥を思い出しました。もう10数年も前になるかと思います。その頃、“シャンソンを歌う会”に入っていて夢中になっていました。年に1回の発表コンサートがあり、その日はみんな精いっぱいのお洒落をして一人ひとりがステージに立って歌うわけです。いよいよ自分が立つ番になりました。堂々と胸を張って舞台に出ようとした処まではよかったのですが、マイクのコードにヒールが引っかかって、すってんころりん! 観客の方に向けて足が跳ね上がったのできっと見られたざまではなかった…と思う…(クシュン)。

 ところが不思議ですが、その一瞬の情景の中で、スローモーションのように自分の心の動きがはっきりと掴めたのです!“…ああ、私はこうして300人の観客の前でみっともなく転んで赤恥をかいてでも、自分の身に付けた不自由な鎧(よろい)を脱ごうとしているんだなあ…”と。

 そして同時に、観客のエールのような愛の波動を全身いっぱいに感じて、立ち上がった時には体中にエネルギーが返ってきていたのを思い出します。そして“…わたし!素っ裸で今日は街中を歩けそう!”と思うくらい、その時、鎧が脱げている自分を感じたのでした。……しかしいつの間にかまた、無意識に着込んでいる自分も…あるんですよね…。

 私は失敗はとても怖いけれど、失敗することを赦して生きているので、かなり大胆な失敗をよくします。でもその失敗を通して本気で学ぼうとしています。等身大の夢でもいいそれを持ち続けて、真摯に生きていく中での失敗は、学ぶべきことが必ずある筈だと…。きっとこれから歳を重ねても、辛いけれども私にとって必要な失敗は訪れ続けるのでしょう。でもその度ごとに気合いと度胸でもって臨み、学んでいくつもりです。

 夫が生前、ある体験を通して語っていたことをふと思い出しました。「…今日なあ。横断歩道を渡るときにいきなり転んだんだよ!その時ふっと、よっしゃ!思いっきり転んでやろうと思ったんだ…。そう、柔道の受け身だな!そしたらほら!全く怪我がなかったよ…」と。その時はあまり深く考えず、夫らしいな…と笑って聴いていましたが、失態に臨む夫の心意気が今回のテーマに繋がるのを感じました。

失敗を覚悟で 挑み続ける それがアーティストだ
スティーブ・ジョブズ

リスクを取る勇気がなければ 何も達成することがない人生になる
モハメド・アリ


*次回のコラムは2月20日前後の予定です