2017年4月19日水曜日

正直な言葉は相手の心にまっすぐ届きます

Column 2017 No.47

 「…断ることが苦手で、本当は行きたくないのに、誘われるとつい行く羽目になったり、買いたくない品を買う羽目になったりして…あとで悔しい思いをすることがたびたびあります…」と言った相談を受けることがあります。

 私たちは断ることが何故こうも苦手なのでしょうか。それはおそらく幼い頃から親子関係の中で“断ることはいけないこと”“断ると嫌われる”…という価値観を色々な形で受け取ってしまったからではないでしょうか。

 お母さんから「お隣に回覧板をもって行ってちょうだい」と言われたとき、あなたが今、観たいTVを観ていたり、模型作りの途中だったりすると、「いやだ!今は駄目!」と言いますよね。するとお母さんは「ほんとに言うことを訊かない子なんだから」とか「役に立たない子ねえ!じゃあお母さんが持っていくわよ!」と不機嫌に応じられることが日常的だったりすると、「ああ、“NO”ということはいけないことなんだ…嫌われるんだ…」と子どもは受け取ってしまい、“NO”ということに罪悪感を覚えるようになっていきます。一方、

 食事のおかずを、「まずい!」と言って子どもが残したが「残念ねえ…」と言って、なぜか母親は受け入れてくれた。
 遊びに夢中になって、親との約束を忘れてしまった子供に、「困ったんだよ…」と親は諭したけれど、許してくれた。
 親にお手伝いを頼まれたが、自分にもやりたいことがあって「いやだ!」と言ったら「そうなの。残念だわ…」といって受け入れてくれた。

 生活万般、いつもそうはいかないにしても、時にこのように機嫌よく“NO”を受け入れてもらった経験のある子どもは、“NO”を言ってもいいんだ…できないことがあってもいいんだ…僕が僕であっていいんだ…と学んで育つので、人間関係に恐れがなく“NO”と言いたいときに率直に言えるのです。

 日本人の多くは、いい子を求められ“NO!ということにはリスクがある”的な教育を受けているので、一般的に自分の本当の想いを表現するのは結構苦手です。その結果“日本人は何を考えているのか分からない”と揶揄(やゆ)されたりし ますが、その原因の多くは、おそらく欧米人と違って、“はっきりNO!と言えない国民性”が、そういった誤解を生んでいるのではないでしょうか。

 でも一度しかない人生です!“NO”が言えない為に、不正直に他人(ひと)さまへの協力だけで、あなたが本当にやりたいことができないままに人生が終わったとしたら、何と悔しいではありませんか。本当に断りたいときに率直に断り、自分の時間を大切にしていくことは、自分の人生に責任をもつ人の、とても素敵で尊い行動なのです。

正直な気持ちはとても大切だ。しかし相手がそれを受け入れ
やすいように準備することは、同じように大切だと思う
おちまさと

おち氏の言っている通りです。自分の想いを表現するとき、自分の想いだけで頭が一杯になっていると、つい押しつけがましくなったり、言い訳がましくなったり…その結果、相手を傷つけたり怒らせたりして、相手との人間関係は壊れる方向に行ってしまいがちです。人間関係はコミュニケーションで成り立っています。よって人間関係が壊れてしまう原因の多くは、コミュニケーションのまずさからきているのです。コミュニケーションを正していけば、人間関係も正されていくのです。

 自分の真実の気持ちを、相手のハートに届けようと思ったら、おち氏のいうように、それなりに周到な準備がいるのです。親業はコミュニケーションの取り方を学びます。自分の本当の想いを大切にして、それがまっすぐに相手に届くように、受け取る側の心情をも大切にしたコミュニケーションの形を学習します(コラムNo11)。そしてそれを相手に伝える前に、さらに周到に訓練していきます。繰り返し訓練していくことで、やがて必ずあなたは、コミュニケーションのベテランになっていけるわけです(コラムNo12)。

 自己表現には色々な形がありますが、今回は、気の進まない誘いなど、“お断りしたいな…”とあなたが思うとき、相手に不愉快な思いを与えずに断る方法を少しご紹介しましょう。親業訓練協会主宰の「人間関係講座」が提供しているスキルのひとつです。断る「理由」と「意思」を相手に明確に伝えることがポイントです。例えば「今日は家で片づけをしたいので(理由)行かないことにします(意思)」 “意思”とはあなたの本当の気持ちです。

 “行けません”とか“できません”は意思ではないので、誘った人は「~してあげますので行きましょう」とか「あなたなら出来ますよ」のように乗っかってこられやすいのですが、“行かないことにします”と意思が伝わると、あなたの固い決意が伝わるので、“なるほどわかりました“と相手に理解頂けるのです。大切な人間関係であれば、“理由”は忘れずに付けて下さいね。「いま病人を抱えていますので(理由)今年の役員は引き受けたくないのです(意思)」のように…。

 しかし人間関係を続ける必要のない場合は、「貴金属は買うつもりはありません(意思)」「新聞は要りません(意思)」と意思だけで伝える方が、はっきりと断れます。この場合、理由を付けたりすると、逆にそこに乗っかってこられやすいのです。

 受講者Sさんの体験です。「…大切な友人なので、誘われても今までは断り切れず、少し無理をして付き合っていました。しかし学習してからは、行きたくない時には思い切って断ることにしました。拍子抜けするほどBさんはあっさり解って下さるのです。それからはBさんも、都合の悪い時は率直に断って下さるようになりました。より親密になれたような気がします…」

 案ずるより産むが易し…です。率直で正直な自己表現は、相手に安心感を与え信頼を得ることになるのです。もっとも、いつも“NO”を発信するだけでは、人間関係は成り立ちません。自分に正直でいるなら、心から“YES”と言いたいこともある筈です。 “自分への思いやり”と“相手への思いやり”が、自分の中で快適なバランスを持つこと…。これがコミュニケーションの基本です。

 自分を大切にするということは、自分に正直になることです。あなたが今、心や身体のどこかに苦しみや痛みを感じているとしたら、それは自分にもっと正直になりなさいというサインかもしれません。誰よりも自分に優しく自分を大切に生きてください。

あなたの人生はあなたのものです


*次回のコラムは5月20日前後の予定です