2017年8月20日日曜日

一日1回でいい。ほんの僅かな時間でいいから、
一人ひとりの子どもを、心を込めて見つめてあげよう
ジョンソン
Column 2017 No.51

 子どもへの愛情表現はスキンシップだけではありません。コラムNo42でご紹介したコミュニケーションは“無条件の愛”を伝えていく上でとても大切なコミュニケーションの方法です。またコラムNo48でお伝えしましたが食を満たしてあげることも基本的な愛情伝達です。そして冒頭のアメリカの心理学者ジョンソンが“一人ひとりの子どもを心を込めて見つめて…”と言っていますが、愛情のこもった目線を子どもに合わせていくことは、子どもが親の愛情をシンプルに受け取ってくれる大切な愛情伝達のもうひとつの方法です。

 この“一人ひとりの子どもに…”という辺りが実はポイントです。親である私たちは幾らか相性はあるにしても、どの子にも同じように愛情をもっています。ところが子ども達から「お兄ちゃんの方が大切なんでしょう!」とか「妹ばっかり可愛がって!」と、ある日唐突に言われて、全くその気がないだけに、とても衝撃を受けたという体験は無いでしょうか。

 しかし胸に手を当てて考えてみたら、子どもにそう思わせた行動・言動が、もしかしてあったかもしれません。あるお母さまの体験ですが、毎朝二人の兄弟を集団登校の場所まで送って、その二人の兄弟に“いってらっしゃ~い!”と手を振って見送ります。ある日のこと学校から帰宅した兄弟のひとりが「ママ!言っとくけどね!朝バイバイするとき、いつもK(弟)ばっかり見とるよね!」とすごい見幕で言ったそうです。

 お母さんの心に衝撃が走りました。何故なら心当たりがなかったからです。でもよく考えてみたら、お兄ちゃんは集団行動に慣れていて、しっかり行動できるけれど、今年学校に上がった弟はまだ自信なさそうに見えるので、“心配の目で弟の方ばかり見ていたのかもしれません”とお母さんはおっしゃっていました。でも子どもにはそんな理由は通用しません。一人ひとりがみんな親の愛情を必要としているのです。親の目線が今どこに行っているのかをいつも見ているのです。親の目線で愛情を測っているということがあるのです。大切に思っている親が、自分を見つめてくれないのは想像以上に子どもにとっては悲しいことなのです。「注目されたい」という欲求は人間の基本的欲求のひとつで、子ども時代に充分に満たされる必要があるのです。

 学校の授業で、子ども達はみんな、授業の内容に集中しているか…というと、実はそうばかりではないのです。親からの愛情を充分に受け取っていない子供は、教師が話す課題に注目しない…というより“注目できない”で、教師が、いま誰を見ているか、自分にも注目しているか、どんな感情でいるか…等々、“課題よりも教師自身に注目する”傾向がある…と言われています。

 このように、親からの“愛情の確認”は、その子の将来の“課題への集中力”にも確実に影響を与えていく…ということなのです。この側面から考えても、親は一人ひとりの子どもにきっちりと視点を合わせて、本気で子どもの話を聴いたり、親の愛情を伝えたり…つまり“注目されたい”という基本的欲求を満たしておいてあげることは非常に大切だということが解かります。

 無意識ですが、親は、一番最初に生まれた子どには特に注目する(目線がいく)傾向があります。何故なら親にとって初めての子どもは、何事も初めてなので、いいも悪いも緊張がいつもあります。幼稚園も初めて、学校も初めて、勉強も初めて、ママ友も初めて、受験も初めて…当然に注目がいきます。だから昔から“総領の甚六”という故事があり、一番初めに生まれた子は、多くの目線が集まり、しっかり関わられており、大切に育てられているので、おっとりとして、お人よしが多い…というわけです。結構真実を付いているような気がします。

 しかしその弟妹となると、親にとってはどの子も可愛いことには決して変わりないのですが、幾らか育児のコツもわかり、慣れてきてそれほど手も心も掛けなくなる…。つまり“注目が少なく”なっていくわけです。しかし子どもから見ると、自分に目をかけてくれないということは “自分は居ても居なくてもいい存在なのではないか…”“自分には価値がないから親が大切にしてくれないのだ…”と、受け取っていく場合だってあるのです。

 以下に、私の講座を受講されたあるお母さんの体験の一部を、ご本人了承のもと紹介します。

 8歳のH子さんとお母さんが一緒にお風呂に入っていた時、H子さんが急に泣き出してこう言ったそうです。「あのね…夜ご飯の時、クイズ番組でお兄ちゃんが答えを当てたでしょ。その時ママもパパも“凄いね!”ってお兄ちゃんを褒めてたよね。その前の問題で私が当てた時は、パパもママも“ふう~ん”という感じで全然褒めてくれなかった。私すごく悲しかったよ。お兄ちゃんばっかり!えこひいきだよ!」

 お母さんはそんな気持ちはなかっただけにびっくりされましたが、その時の子どもの気持ちをきちんと受け止めて「そうか…自分の時は褒めてもらえなかった…と寂しい気持ちでいるんだねえ…。ごめんね。悲しかったね…」と心からの共感で受けとめられました。すると「そうよ…。凄く悲しかったんだから。特にママはいつも受験のことでお兄ちゃんのことばかり構ってるよね。私、そういうのもいつも寂しいんだよ」

 お母さんは決して言い訳をせず、そのH子さんの気持ちを、続いてそのまま受け止めていかれました。「そうか…お兄ちゃんは構ってもらっているのに、自分は注目されていないと感じて寂しい気持ちでいるんだね…」と。すると「そうよ…私、一人ぼっちな気持ちになるんだから。受験だから仕方ないとは思うけど、私にもやっぱり構ってほしいよ(泣く)」「もっと構って欲しかったんだね。寂しい思いをさせてごめんね…」

 そのあとのお母さんの感想です。「クイズ番組のことがきっかけではあったが、娘が日頃の思いを打ち明けてくれたのには驚いた。講座に通い始めてからなるべく能動的な聞き方(共感をベースにした聴き方)を心掛けるようになったので、娘も思いのたけをぶつける気持ちになってくれたのかもしれない。息子にばかり構っている積りはなかったのだが(中略)…娘はそのあと、安心したように静かに泣き続け、そのあとは私に甘えてきました…」

 H子さんはお母さんに本音を語ることができ、本当の自分の気持ちをそのまま受け止めてもらって、どんなに癒されたことでしょう…。子どもは、すべて分かっているのです。お母さんの大変な事情も…。だから一生懸命我慢もします。しかしやはり寂しい思いをしているのです。やっぱり見つめてほしいし関わってほしいのです。

 H子さんの言い分・訴えは、誰にも言えず寂しい気持ちを抱いたまま黙って我慢をしている多くの子ども達の気持ちを、明確に代弁してくれています。子どもを育てているお母さん(お父さん)方お一人おひとりに、このH子さんのメッセージを是非お伝えしたいと思いました。

子どもへの最大のプレゼントは 親の積極的関心です
加藤 諦三


*次回のコラムは9月20日前後の予定です