2018年9月20日木曜日

自分への限りない思いやりこそが愛の人になれる鍵です

Column 2018 No.64

 ある動物園の園長さんのお話です。
「…不幸にも母親猿にかまってもらえなかった子猿が母親になったら、自分の子どもにもやはり愛情を示さないんですね…。甘えてくる子猿に危害を加えることもあります。一方、母親に愛されて育った子猿が母親になったら、餌を獲得できるようになるまで、殆ど子どもを手放さずに抱いたりおぶったりし続けます…」

 このお話は、私たち人間の子育てにとっても、大切な示唆があります。次はずっと以前、新聞の投稿欄に掲載されていた一文です。
「…35歳の主婦です。2歳と3歳の子どもがいます。実は私は子どもがちっとも可愛いと思えないのです…。 最近は我が子の泣き声を聞くだけでイライラして、つい手を出してしまいます。すぐに後悔するのですが、またすぐにカッとなって手が出ます。私には母性が欠けているのでしょうか…」

 あるお母さんは泣きながら私にこうおっしゃいました。
「…子どもが苦しんでいるのを見ると、今ここで助けてやらなければ…と分かってはいるのだけれど心が動かないんです。“私だって苦しんできたのよ!あんたはまだましですよ…”と、心のどこかで冷ややかに眺めている自分が居るんです…」

 本当はどのお母さんも愛深いお母さんになりたいと思っているのです。子どもを怒るまい叩くまい…と思っているのに、カッとなると機械的にスイッチが入って、子どもを罵倒したり暴力を振るったり、嫌味を言ったり無視したりしてしまうわけです。どうしようもない自分に心の中ではおいおい泣きながらついやってしまうのです…。

 そんなお母さん方によく伝えます。「…お母さん、あなたが悪いわけではないんですよ‥。あなたが親御さんから愛を学んでこれなかっただけで、仕方ないんですよ…」と。するとご自分の生い立ちを涙ながらに語られます。いかに親に無視され侮辱されてきたかを…。そして“…でもこのままでは子どもは大変なことになる!やめなければ!…と、私どこかでずっと思ってるんです。でもつい…。どうしたらいいのでしょうか…” このように自分を責め、絶望的になっているお母さんは意外にたくさんいらっしゃるのです。

 続いて私はお母さん方に伝えます。「…子どもは見捨てなければ育ちます。怒ったり叩いたりするのはまだ子どもを見捨てていない証拠です。でも怒らない・叩かないが一番いいですよね。しかしこれは一度には、なかなか直すことは出来ないものなんです。多くは体に染みついていますからね。だからついやってしまう自分をどうぞ許してあげてください。やっていい…と言っているわけではありません。やってしまう自分に気付いて、そして許してあげるのです。今は仕方ないんだ…と。自分を責めまくって、いっとき反省しても、なかなかいい方向には向かわないんです。許してあげる方が不思議ですが、徐々に辞められる方向にいきますからね…」

 こういうと、多くのお母さんは号泣されながら「…なんか楽になりました…。難しいけど、そんな自分を責めないでいいんですね…」と、“何だかよくわからないけど…できそう…”という表情をされます。

誰かを愛すること、それは私たちに課せられた最も困難な試練です

 オーストリアの詩人リルケが知人に宛てた手紙の一文に書いています。特に愛を学ばないまま大人を迎えてしまった人にとっては、“愛を学ぶ”ことは、最も難しく、リルケの言葉を借りれば“試練”だと思います。人は長年培ってきたものを簡単に変えることは難しいということです。しかし愛する能力も訓練(練習)で身につくものなのです。日々の自分の思いの傾向に気づき、赦し、そして今できることをひとつやっていく。その日々のひとつの積み重ねが大切なのです。

 やりすぎたな…と思ったらまず心からお詫びを言いましょう。子どもがいけなかったのではないことを…。罪悪感を払拭してあげることはとても大切です(コラムNo61)。一度には子どもの気持ちは晴れないでも、お母さんのことを大好きですから許してくれます。失敗してしまったりやり過ぎてしまった時、居直ったり挫折しないで、気付いたらすぐに気持ちを立て直す…これも大切な訓練です。

 機嫌のいいお母さんになることが子育てには一番大切です。親から愛を受けとれなかったお母さんはとても不機嫌です。なぜなら親に気を遣って生きてきたから、言いたいことを言わず、やりたいことをやってきていないので、幼い心が怒っているのです。

 “子どもを愛してあげられる私になろう…”それはとても大切な目標ですが、とりあえずは、遠くの目標はひとまず置いて、“今、どうしてあげたら私の心が喜ぶんだろう…” “私は今、ほんとうは何がしたいんだろう…”と、感じてみて下さい。今の自分の心を満たしてあげることが、何はともあれ一番に大切です。親からやってもらえなかったことを少しずつ、いま自分にやってあげるのです。

 幼い頃の自分が心の中で声を潜めて泣いているのを感じてあげてください。あなたは子どもの頃、お母さんに言えなかったことは何ですか。お母さんに何をしてほしかったのですか。お母さんと何をして遊びたかったのですか。本当にやりたかったことは何ですか。本当に欲しかったものは何ですか。それを自分に、いま与えてあげてください。周りの人が何と言おうと笑おうと、自分にやってあげてください。そのうち幼かった頃のあなたが少しずつ笑顔を見せ始めますよ…。これが真の癒しです。不思議ですが、気持ちが癒されてくると、いつのまにか他者に、そして我が子に、ずっと優しくなっている自分を感じるはずです。

 リルケは“愛を学ぶことは試練だ”…と言いましたが、実は、自分への限りない優しさ・思いやりこそが、愛の人になれる鍵(キーポイント)だとしたら、愛を学ぶことは、試練というよりは、‶真の癒し“であり、“自分育て”であり、決して苦しい作業ではありません。それを積み重ねていくことがまた、あなたの自己実現に向かう確かな道でもあります。コラムNo39コラムNo43にも“赦し”や“自分を愛すること”についてのテーマに触れています。

*次回のコラムは10月20日前後の予定です。

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