2021年8月20日金曜日

心の虚しさを抱き容れる

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Column 2021 No.99

 表情が見えないマスクの群れ、呼吸が感じられないオンラインでのやり取り、和気あいあいと飲み合うことも久しくご無沙汰。心待ちにしていた友人とのランチも「どうぞ黙食で」とある。これをそのまま守っていたら、人と人とはいったいどこで繋がれるのだろう。

 心配な状況を挙げればきりがありません。まさに寒々とした時世です。このような不確かな世の中にあって、自分を見失わず、凛として生きていくために、一体私たちには何ができるのでしょうか。この不安な流れは当分収まることは見込めないし、誰に期待することもできません。

 今回のテーマはコロナで浮上した私たちの心の中にある「虚しさ」について考えてみたいと思います。私も時折訪れるこの虚しさを持て余すひとときがあります。何だか虚しい。何だかつまらない…と。私たち一人ひとりが、この虚しさといかにつき合い、心穏やかに生きる喜びを失わないで生きていくのか…は、特にいま大切な課題であるような気が致します。

 カウンセリングの場での体験です。生きる虚しさを感じている人々は、自分のハート辺りに空洞を感じると表現する人があります。固まりがあるという人もあります。そして無意識にこの空洞を埋める為に、アルコールに依存したり、誰かに愛されていることで、虚しさを忘れたいと恋愛に依存したり、働き続けることで自分の中の虚しさから逃れたいと仕事に依存したり…。依存の形には色々ありますが、虚しさを忘れたい、虚しさから逃れたいという心理だと言われています。多かれ少なかれ誰にもあるもので、無意識の穴埋め作業です。しかし何かに依存することで虚しさを埋めることは、多くの場合は難しいでしょう。

人生の答えなんて考えてわかるもんじゃない。ただその時その時を
ぎりぎり生きている奴だけにその答えは見えてくるんじゃないだろうか
藤本 義一

 その通りだと思います。彼が言うように頭で考えても答えはやっては来ません。落ち込んだままでいい、虚しいままでいい。とにかくわけがわからないままでいいから、何か行動を起こすこと。無心に行動をしているうちに、いつのまにかエネルギーが動き始める…という体験を私もしています。“何でもいい。行動をしてみること”は虚しさの対処法のひとつだと思います。

悩まない人があったとしたら、
それはもしかしたら人生じゃないかもしれない
伊集院 静

 人生は幸せであるべき、幸せであらねばならない…と、私たちはどこかで“幸せこそが人生!”といったような定義をもっていないでしょうか。このような理想を掲げることが、満たされない感覚、慢性的な不満足感の中に漂ってしまう原因になっているような気がします。人生には色々なことが起きてきます。仕事で挫折することもあれば、人間関係で挫折することもいっぱいあります。“人生幸せであるべき”といった過剰な期待が、実は虚しさや不安を増幅させてしまっているかもしれません。

 私たちは確かに人生を楽しむために生まれてきたのだと思います。そして自己実現を最終目的として生まれてきているのだと思います。その目的に向かうために、私たちの魂は、歓びの感情も悲しみの感情も、怒りの感情も憎しみの感情も、虚しさの感情も、体験して味わって気付いて、魂に落とし込んで、そして生きる智慧にしたい。つまり人生を深く生きて、自己実現に向かいたいと願っているからこそ、色々困難な人生をも無意識に引き寄せて体験し、学ぼうとしているのだと思います(コラムNo15)。私たち人間は想像以上に、忍耐と踏ん張りをもって、自己実現に向かって生きている勇気ある存在なのです。

 いま高齢者を襲う虚しさが論じられています。確かに老いるということは、人生の四苦と言われる「生老病死」すべてが関わってくるわけですから当然と言えるでしょう。若い時には理解できない深刻な虚しさの中で、しかも疾病・貧困・孤独と闘いながら、残された人生で自分は何ができるのだろう。自分に何が求められているのだろう…その問いに真剣に対峙している高齢者は多いと思います。

 私自身もその年齢の域に入り、ときに襲い来る虚しさと闘いながら「残された人生で何ができるか」を真剣に求めています。そして日々このような気持ちを大切に生きていこうと思っています。

*生きるということは当然“虚しさと共歩き”なのだと抱き容れる
*新しい体験を興味津々で迎え、今日の日を私なりに思い切り楽しむ
*無理をしないで一日一日を、とにかく感じて、そして生き切る
*社会とのつながりを、何かの形で保ち続ける
*“自分軸”をいつも意識して、決して情報に振り回されない
*周りに過剰な期待はしない。そして決して人生を諦めない
*どんな状況にあっても自分を“無条件に赦して” “無条件に愛して”生きる
*見えない大いなる世界、サムシング・グレート*をさらに理解して、生活の中に生かして生きる(* “サムシング・グレート”は、遺伝子オンの生き方で有名な分子生物学者 故 村上和雄氏の造語)

幸せの中で生きている人は、どの人も、大きな力とのつながりを
感じていて、生きていることの感謝と驚きと人智を超えた力への
畏敬の念を持っていることが共通しています
マーシー・シャイモフ

 山下義一氏の「109歳 私の幸福論」を読みました。山下氏は111歳でご逝去。周りに甘えず、自分のできることをして、命尽きるまで社会に貢献した人です。

いつまでたっても何歳になっても「われは咲くなり」の気分です。
現在109歳になりますがその気持ちはかわりません
山下 義一

*次回のコラムは2021年9月20日前後の予定です。

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