2020年9月20日日曜日

子どもの心が赤信号から青信号になるまで待ちましょう。そして歩道を渡るのか他の道を選ぶのかを少し待ってみましょう

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Column 2020 No.88

 親業では「待つ」という親の呼吸を大変大切にしています。赤ちゃんは例外ですが、子どもは自分で自分を守る力があり、自分の人生を選び取る力があります。しかし子どもの中のその力は、親の関わり方次第で奪われたり、弱体化していくことが多いのです。過ぎた「過保護・過干渉」または過ぎた「放任」などは子どもの本来のパワーを奪ってしまいます。

 親業のスキルのベースにはすべて“子ども先行”という大原則があります。つまり子どもが何かしようとしている、何か言おうとしている…その前に親は行動をしないで待ってみる呼吸です。子どもが言わんとしていることを、親はゆったりと待ち、話している子どもの心が赤信号であれば、決して茶々を入れずに「共感力」をもって、出来れば青信号になるまで、ただ聴いていきます。親の考えは与えないで、子どもから来た解決策を大切に見守ります。

 一方、親も人間です。子どもの行動が受容出来ないことがあります。お手伝いの約束を守らない時、宿題をやりたがらない子どもを前にしたとき、或は他人様に迷惑行為をしているとき…など、多くはほっておけない心境になるものです。子どもを、どこで叱り、どこで見守り、どこで聴いていくのか…を決めるその尺度は子どもの行動を見ている人(親なら親)が決めます。一般論がものさしではなく、専門家が言っていることがものさしでもありません。

子どもがいたずらをすることは大切です。しかし大事なものを壊した時、
「これ大事にしていたの。壊れちゃってがっかりだよ」…と、子どもが
やった行為によって自分がどんな気持ちになったかを伝えるのが親業です。
平井 信義 (元親業訓練協会顧問)

 子どもを叱るときでさえ、子どもの前に立ちません。子どもの言い分、子どもの気持ちを受けとりながら、親の自分が何を伝えたいのか、自分の気持ちが明確になるまで待ちます。自分の気持ちを見つめていれば、自分の中に必ず答えがあるので待っていれば浮かび上がってきます。「あなたが~したら、~のような影響があるのよね。だからお母さんはとても心配なんよ(困るんよ)」のように、子どもに理解できるように伝えることができるのです。もちろんこれには練習が要りますので、親業の講座名は「訓練講座」であり、訓練を大切にしています。

 子どもが、自分軸をもって堂々と社会を生きていく為には、色々な力が必要です。自立心・自律力・判断力・選択力・意欲・自己教育力…等々です。これらの力を子どもの中に育てるには、親の「待つ」という姿勢が大変重要になります。そして子どもにその力を育てていく為には、まずその親自身が自分軸を育て、自分から来る答えを信頼して待つ訓練が必要になってきます。

 さて、子どもの思春期には、親との関係で鬱積してきた感情が疾風怒濤のように吹き出てきます。まさに敗者復活戦とも言えるように深刻に親を悩ませます。しかし子どもにとってこの作業は大変大切なプロセスで、強烈に出れば出るほど情緒的にしっかり落ち着いてきます。‟反抗期は無いよりあった方がいい“と言われる所以です。もちろん内向きな反抗(鬱・心身症・不登校…等々)もあります。こちらは時間はかかりますが、子どもの鬱積した感情を上手に開放してやれば、徐々に子どもは自分軸を構築していきます。

 ある母親Mさんが「待ってみる」ということを実践された、心に残っているエピソードをご紹介して今回のコラムを閉じたいと思います。

 Mさんは子どもが大切であるが故に、無意識に子どもを過剰に干渉して育ててしまいました。案の定、思春期を迎えた長女S子さんとの関係はどんどん悪くなって、S子さんは遂に家出をしてしまいました。お母さんは色々と心を砕いて、居場所はわかったものの、どんなに説得しても帰らないという…。

 そこでMさんは、親業で最後辺りに学習した“子どもの行動のすべてを変えるということはできません。結果は期待しないで祈って待ちましょう”…というスキルを思い出されました。“そうだ、待ってみよう…子どもの幸せを祈りながら…”と、静かな気持ちに辿り着かれたのです。

 ある日、S子さんがひょっと帰ってきました。離れている間にS子さんは、身の回りのものは自分で管理し、洗濯も自分でして取り込んでたたむ…驚くような変容が見えたそうです。しかし、母親とS子さんとの行き違いが再び起ってしまい、「母さんはちっとも変っとらん!やっぱり出ていく!」といって、どんなに押しとどめようとしても決意は固く、衣類を纏め始めました。

 母親のMさんは気持ちが張り裂けんばかりに悲しかったけれど、やはりこの子の選んだ道を尊重していこう…。再び静かな心情を取り戻されたのです。気付いたら娘の衣類にアイロンをかけたり、衣類をバッグに詰める手伝いをしていた…というのです。それを見ていたS子さんは、呆れた表情で言ったそうです「娘の家出の手伝いをする親がどこにおるんね…」と。

 そう言って、夜半近くに荷物を持って出ていってしまいました。出ていく娘の後姿に、母親のMさんは「元気でやるんよ!毎日S子のことを祈ってるよ。そしてお母さんもいいお母さんになるように頑張るけんね。帰りたくなったらいつでも帰ってくるんよ」S子さんは振り返ることもなく出ていってしまいました。

 それから数か月の後、S子さんから予期せぬ電話がありました。電話口からS子さんの落ち着いた声が聞こえました。「今度は本当に帰るけんね。お母さんありがとう…」と。

 「待つ」ということはそんなに易しいことではありません。母親のMさんも心配で血を吐くような思いでした…と、述懐しておられました。

 厳しい大自然の中で生き抜いてきたアメリカインデイアンの部族につたわる“子育て四原則”のひとつに次の名言があります。

青年には目を離して心を離すな

 S子さんの母親は、まさにこの“立ち位置”を大切にされたのです。


*次回のコラムは10月20日前後の予定です。

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