2020年3月20日金曜日

脳にいいことだけをやりなさい(その2)

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脳にいいことだけをやりなさい
マーシー・シャイモフ
Column 2020 No.82

 コラムNo81では下記1~2について触れました。今回は下記3から続いて書いてみたいと思います。

1 脳は楽しいことが好き
2 脳は刺激的な学習をすることが好き 
3 脳の衰えを老化のせいにしない~脳は齢を重ねても育ち続ける~
4 愛は脳を元気にする
(※No5以降は次回のコラムに続きます)
5 脳の傷は癒せる
6 脳はだまされやすい
7 脳は支配できる~脳は書き換えることができる~


3 脳の衰えを老化のせいにしない~脳は齢を重ねても育ち続ける~

 前コラム(No81)で取り上げた医師の山田規畝子氏は高次脳機能障害を発症し、その障害と苦闘しながらも、この環境のなかで、この状況の中で何ができるかを模索し続けました。症状のために、何か思い出しにくいことがあっても、決して諦めないで、脳の中にある記憶の部屋をかき回して探す…と。そして齢を重ねた脳でも、障害をもった脳でも、必ず学習する…と述べています。

 さて今回は「脳の可塑性(かそせい)の追求」というテーマの研究活動に軸足を置き、講演活動や著書の出版を通して「脳」の神秘を面白く解かり易く伝えている、池谷雄二氏の著書より学んでみたいと思います

20歳あたりで脳神経のネットワークはだいたい完成する。
ところが、その後は成長が止まってしまうのかというと、決してそうではない…。
それ以降も、学習や経験を生かして脳は、新しいネットワークを創っていく。
このように脳が生涯にわたり変化していくことを、「脳の可塑性」といい、
ヒトは人生で得た色々な経験や知識を、脳回路に蓄えることで、
ネットワークをカスタマイズしていく。

 希望ですね! 可塑性があるということは、頭の良し悪しは遺伝子で決まる…といった、いわゆる支配的だったその論理を、ある側面くつがえすものでもあります。つまり「脳」には可塑性があるから、学習や訓練によって、生涯にわたり変化をしていく…というわけです。 しかし脳の神経細胞は再生はされないし、しかも加齢と共に、少しずつ減少していくものでもあります。しかし“このことと、脳の機能が衰えることと混同してはいけない!”と、彼は述べているのです。

加齢によって減少する神経細胞は、生理学的・解剖学的にいえば、
千数百億個の神経細胞のうち、極めてわずかなものに過ぎない。
これまで“脳の老化”とみなされていた説には、
統計的な手法によって、生み出された幻影も多く含まれていると言える

 私自身、かなりの齢を重ねて、何かの折に、記憶力の衰えを感じたり、若い頃のような勢いや、ときめきの感情の衰えを感じて愕然とすることがありますが、脳の働きの真実にふれると、“なんと我々人間は、神秘と可能性に溢れた存在なんだろう!命のある限りその可能性を信じて、地球次元を去るまで、尊厳性のある生き方をしていきたい…”と改めて身に沁み、感じ入ったことでした。

脳は筋肉と一緒で、鍛えれば鍛えるほど強くなる
ホワン・ルイズ


4 愛は脳を元気にする

 脳科学者の松本 元氏(1940~2003)は 脳で行われる情報処理が、明らかになるにつれて、愛や意欲といった「情」の持つ意味が科学の言葉で語れるようになってきた…と述べて、次のように語っています。

私は脳の構成的研究によって初めて、脳研究から、心の理解が可能に
なってきたと考えている。脳の構成的研究アプローチによって、
「心」を具体的に説明する可能性が見えてきた

 彼は著書の題名に「愛は脳を活性化する」といった大胆な命題を掲げています。欲求段階説(コラムNo15)で有名なマズローも、生まれつき備わった“愛情欲求”はきちんと満たされないと、次の成長欲求には向かえない…と述べています。脳科学者の松本 元氏は、「脳」という見地から見ても、特に乳幼児期に愛情が満たされないと、脳の発育(神経回路の整備)不善となり、免役活性の低下にもつながり、いのちを失ってしまうことさえも起り得る…と警告しています。

 茂木健一郎氏も講演の中で「子ども時代に安全基地が創られる必要がある」と述べていました。安全基地とは、愛溢れる親との“絆”ができていて、子どもが、いつでも帰れる心の拠り所となっている場所です。私自身「親業」というセミナーの中で、子どもを育てる上で、親の愛情がどれほど重要であるか…を伝えている者にとって、両氏の考えには深い共感があります。

 松本氏が、脳と愛について考え始めたきっかけは、身近な人の交通事故だったようです。当時15歳だったN君は、下校時に自動車事故により、右大脳半球の広範部(前頭・側頭・頭頂)の損傷を負って、意識不明の大重体となり、医師からは「植物人間となる可能性が非常に高い」と宣言されました。しかしN君の家族は、決して諦めず、事故後から意識不明の彼を集中治療室に入れたままにしないで、ベッドサイドで毎日の大半を共に過ごし、愛の言葉を掛けながら、特に損傷の激しい左半身に心を込めて、スキンシップを続けたのです。こうした献身的な看護の結果、N君は1ヶ月半後に、奇跡的に意識を回復し、結果的には、左半身もほぼ正常に回復して、大学に進学し、普通の社会生活を送るに至ったのでした。

 「人の脳細胞は胎児期を過ぎると、分裂・分化はしない。従って、いったん壊れた細胞は再生はしない。しかし脳が損傷を受けてその機能が失われても、外部状況に対する快・不快の情動判断はほぼ正常に行われる。よって家族の愛情あふれる献身的介護が、N君の脳に伝わり活性化に繋がったと考えることができる。壊れた細胞の代わりに別の細胞が新しいネットワーク回路を形成して、機能を代替することはあり得る。愛情はその働きを加速するのではないか」…と、松本氏は大胆な仮説を打ち立てたのです。そして次のように述べています

脳の活性化に、最も支配的な情報は、「情」に関するものである。
一般的に「情」は低次元の心の働きと思われがちだが、
実際には「情」こそ、脳というエンジンを最もよく働かせるガソリンなのである


*次回のコラムは4月20日前後の予定です。

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