マーシー・シャイモフ
コラムNo81では下記1~2について触れました。今回は下記3から続いて書いてみたいと思います。
1 脳は楽しいことが好き
2 脳は刺激的な学習をすることが好き
3 脳の衰えを老化のせいにしない~脳は齢を重ねても育ち続ける~
4 愛は脳を元気にする
(※No5以降は次回のコラムに続きます)
5 脳の傷は癒せる
6 脳はだまされやすい
7 脳は支配できる~脳は書き換えることができる~
3 脳の衰えを老化のせいにしない~脳は齢を重ねても育ち続ける~
前コラム(No81)で取り上げた医師の山田規畝子氏は高次脳機能障害を発症し、その障害と苦闘しながらも、この環境のなかで、この状況の中で何ができるかを模索し続けました。症状のために、何か思い出しにくいことがあっても、決して諦めないで、脳の中にある記憶の部屋をかき回して探す…と。そして齢を重ねた脳でも、障害をもった脳でも、必ず学習する…と述べています。
さて今回は「脳の可塑性(かそせい)の追求」というテーマの研究活動に軸足を置き、講演活動や著書の出版を通して「脳」の神秘を面白く解かり易く伝えている、池谷雄二氏の著書より学んでみたいと思います
20歳あたりで脳神経のネットワークはだいたい完成する。
ところが、その後は成長が止まってしまうのかというと、決してそうではない…。
それ以降も、学習や経験を生かして脳は、新しいネットワークを創っていく。
このように脳が生涯にわたり変化していくことを、「脳の可塑性」といい、
ヒトは人生で得た色々な経験や知識を、脳回路に蓄えることで、
ネットワークをカスタマイズしていく。
希望ですね! 可塑性があるということは、頭の良し悪しは遺伝子で決まる…といった、いわゆる支配的だったその論理を、ある側面くつがえすものでもあります。つまり「脳」には可塑性があるから、学習や訓練によって、生涯にわたり変化をしていく…というわけです。 しかし脳の神経細胞は再生はされないし、しかも加齢と共に、少しずつ減少していくものでもあります。しかし“このことと、脳の機能が衰えることと混同してはいけない!”と、彼は述べているのです。
加齢によって減少する神経細胞は、生理学的・解剖学的にいえば、
千数百億個の神経細胞のうち、極めてわずかなものに過ぎない。
これまで“脳の老化”とみなされていた説には、
統計的な手法によって、生み出された幻影も多く含まれていると言える
私自身、かなりの齢を重ねて、何かの折に、記憶力の衰えを感じたり、若い頃のような勢いや、ときめきの感情の衰えを感じて愕然とすることがありますが、脳の働きの真実にふれると、“なんと我々人間は、神秘と可能性に溢れた存在なんだろう!命のある限りその可能性を信じて、地球次元を去るまで、尊厳性のある生き方をしていきたい…”と改めて身に沁み、感じ入ったことでした。
4 愛は脳を元気にする
脳科学者の松本 元氏(1940~2003)は 脳で行われる情報処理が、明らかになるにつれて、愛や意欲といった「情」の持つ意味が科学の言葉で語れるようになってきた…と述べて、次のように語っています。
私は脳の構成的研究によって初めて、脳研究から、心の理解が可能に
なってきたと考えている。脳の構成的研究アプローチによって、
「心」を具体的に説明する可能性が見えてきた
彼は著書の題名に「愛は脳を活性化する」といった大胆な命題を掲げています。欲求段階説(コラムNo15)で有名なマズローも、生まれつき備わった“愛情欲求”はきちんと満たされないと、次の成長欲求には向かえない…と述べています。脳科学者の松本 元氏は、「脳」という見地から見ても、特に乳幼児期に愛情が満たされないと、脳の発育(神経回路の整備)不善となり、免役活性の低下にもつながり、いのちを失ってしまうことさえも起り得る…と警告しています。
茂木健一郎氏も講演の中で「子ども時代に安全基地が創られる必要がある」と述べていました。安全基地とは、愛溢れる親との“絆”ができていて、子どもが、いつでも帰れる心の拠り所となっている場所です。私自身「親業」というセミナーの中で、子どもを育てる上で、親の愛情がどれほど重要であるか…を伝えている者にとって、両氏の考えには深い共感があります。
松本氏が、脳と愛について考え始めたきっかけは、身近な人の交通事故だったようです。当時15歳だったN君は、下校時に自動車事故により、右大脳半球の広範部(前頭・側頭・頭頂)の損傷を負って、意識不明の大重体となり、医師からは「植物人間となる可能性が非常に高い」と宣言されました。しかしN君の家族は、決して諦めず、事故後から意識不明の彼を集中治療室に入れたままにしないで、ベッドサイドで毎日の大半を共に過ごし、愛の言葉を掛けながら、特に損傷の激しい左半身に心を込めて、スキンシップを続けたのです。こうした献身的な看護の結果、N君は1ヶ月半後に、奇跡的に意識を回復し、結果的には、左半身もほぼ正常に回復して、大学に進学し、普通の社会生活を送るに至ったのでした。
「人の脳細胞は胎児期を過ぎると、分裂・分化はしない。従って、いったん壊れた細胞は再生はしない。しかし脳が損傷を受けてその機能が失われても、外部状況に対する快・不快の情動判断はほぼ正常に行われる。よって家族の愛情あふれる献身的介護が、N君の脳に伝わり活性化に繋がったと考えることができる。壊れた細胞の代わりに別の細胞が新しいネットワーク回路を形成して、機能を代替することはあり得る。愛情はその働きを加速するのではないか」…と、松本氏は大胆な仮説を打ち立てたのです。そして次のように述べています
脳の活性化に、最も支配的な情報は、「情」に関するものである。
一般的に「情」は低次元の心の働きと思われがちだが、
実際には「情」こそ、脳というエンジンを最もよく働かせるガソリンなのである
1 脳は楽しいことが好き
2 脳は刺激的な学習をすることが好き
3 脳の衰えを老化のせいにしない~脳は齢を重ねても育ち続ける~
4 愛は脳を元気にする
(※No5以降は次回のコラムに続きます)
5 脳の傷は癒せる
6 脳はだまされやすい
7 脳は支配できる~脳は書き換えることができる~
3 脳の衰えを老化のせいにしない~脳は齢を重ねても育ち続ける~
前コラム(No81)で取り上げた医師の山田規畝子氏は高次脳機能障害を発症し、その障害と苦闘しながらも、この環境のなかで、この状況の中で何ができるかを模索し続けました。症状のために、何か思い出しにくいことがあっても、決して諦めないで、脳の中にある記憶の部屋をかき回して探す…と。そして齢を重ねた脳でも、障害をもった脳でも、必ず学習する…と述べています。
さて今回は「脳の可塑性(かそせい)の追求」というテーマの研究活動に軸足を置き、講演活動や著書の出版を通して「脳」の神秘を面白く解かり易く伝えている、池谷雄二氏の著書より学んでみたいと思います
20歳あたりで脳神経のネットワークはだいたい完成する。
ところが、その後は成長が止まってしまうのかというと、決してそうではない…。
それ以降も、学習や経験を生かして脳は、新しいネットワークを創っていく。
このように脳が生涯にわたり変化していくことを、「脳の可塑性」といい、
ヒトは人生で得た色々な経験や知識を、脳回路に蓄えることで、
ネットワークをカスタマイズしていく。
希望ですね! 可塑性があるということは、頭の良し悪しは遺伝子で決まる…といった、いわゆる支配的だったその論理を、ある側面くつがえすものでもあります。つまり「脳」には可塑性があるから、学習や訓練によって、生涯にわたり変化をしていく…というわけです。 しかし脳の神経細胞は再生はされないし、しかも加齢と共に、少しずつ減少していくものでもあります。しかし“このことと、脳の機能が衰えることと混同してはいけない!”と、彼は述べているのです。
加齢によって減少する神経細胞は、生理学的・解剖学的にいえば、
千数百億個の神経細胞のうち、極めてわずかなものに過ぎない。
これまで“脳の老化”とみなされていた説には、
統計的な手法によって、生み出された幻影も多く含まれていると言える
私自身、かなりの齢を重ねて、何かの折に、記憶力の衰えを感じたり、若い頃のような勢いや、ときめきの感情の衰えを感じて愕然とすることがありますが、脳の働きの真実にふれると、“なんと我々人間は、神秘と可能性に溢れた存在なんだろう!命のある限りその可能性を信じて、地球次元を去るまで、尊厳性のある生き方をしていきたい…”と改めて身に沁み、感じ入ったことでした。
脳は筋肉と一緒で、鍛えれば鍛えるほど強くなる
ホワン・ルイズ
4 愛は脳を元気にする
脳科学者の松本 元氏(1940~2003)は 脳で行われる情報処理が、明らかになるにつれて、愛や意欲といった「情」の持つ意味が科学の言葉で語れるようになってきた…と述べて、次のように語っています。
私は脳の構成的研究によって初めて、脳研究から、心の理解が可能に
なってきたと考えている。脳の構成的研究アプローチによって、
「心」を具体的に説明する可能性が見えてきた
彼は著書の題名に「愛は脳を活性化する」といった大胆な命題を掲げています。欲求段階説(コラムNo15)で有名なマズローも、生まれつき備わった“愛情欲求”はきちんと満たされないと、次の成長欲求には向かえない…と述べています。脳科学者の松本 元氏は、「脳」という見地から見ても、特に乳幼児期に愛情が満たされないと、脳の発育(神経回路の整備)不善となり、免役活性の低下にもつながり、いのちを失ってしまうことさえも起り得る…と警告しています。
茂木健一郎氏も講演の中で「子ども時代に安全基地が創られる必要がある」と述べていました。安全基地とは、愛溢れる親との“絆”ができていて、子どもが、いつでも帰れる心の拠り所となっている場所です。私自身「親業」というセミナーの中で、子どもを育てる上で、親の愛情がどれほど重要であるか…を伝えている者にとって、両氏の考えには深い共感があります。
松本氏が、脳と愛について考え始めたきっかけは、身近な人の交通事故だったようです。当時15歳だったN君は、下校時に自動車事故により、右大脳半球の広範部(前頭・側頭・頭頂)の損傷を負って、意識不明の大重体となり、医師からは「植物人間となる可能性が非常に高い」と宣言されました。しかしN君の家族は、決して諦めず、事故後から意識不明の彼を集中治療室に入れたままにしないで、ベッドサイドで毎日の大半を共に過ごし、愛の言葉を掛けながら、特に損傷の激しい左半身に心を込めて、スキンシップを続けたのです。こうした献身的な看護の結果、N君は1ヶ月半後に、奇跡的に意識を回復し、結果的には、左半身もほぼ正常に回復して、大学に進学し、普通の社会生活を送るに至ったのでした。
「人の脳細胞は胎児期を過ぎると、分裂・分化はしない。従って、いったん壊れた細胞は再生はしない。しかし脳が損傷を受けてその機能が失われても、外部状況に対する快・不快の情動判断はほぼ正常に行われる。よって家族の愛情あふれる献身的介護が、N君の脳に伝わり活性化に繋がったと考えることができる。壊れた細胞の代わりに別の細胞が新しいネットワーク回路を形成して、機能を代替することはあり得る。愛情はその働きを加速するのではないか」…と、松本氏は大胆な仮説を打ち立てたのです。そして次のように述べています
脳の活性化に、最も支配的な情報は、「情」に関するものである。
一般的に「情」は低次元の心の働きと思われがちだが、
実際には「情」こそ、脳というエンジンを最もよく働かせるガソリンなのである
これまで脳から指令が出ていたと思っていた矢印が自分の気持ちから脳へ向けることが出来るのですね。鍛えようと思えば強くできる!
返信削除N君のエピソードは感動的でした。どんな暗闇の中でも一筋の光が本当にあるんだと確信できました。
脳も心もどちらも原点は愛情で不調になった時も必要なのは愛情。
親業で愛情を伝えるスキルを習ったので不安にならず過ごせそうです。
始まりも愛、最後も愛・・・うまく伝えられたかわかりませんが私の中ではこんな感じです(o^^o)
MOONさま
返信削除おっしゃる通りです。実は脳への司令塔は 脳ではなく、私たち自身なのです。脳に関する最終回のコラムでは、その辺りに触れていきたいと思っています。
そうですね! 心も脳も 愛情でバランスを保っています。あれほど損傷した N君の脳細胞を復活させるだけの力が 愛情にはあるんですね! 本当に心うたれますよね…。
おっしゃるように、"始まりも愛 最後も愛"…総て愛が出発ですね! 愛が答えですね!
1月に還暦のお祝いをし、このまま年をとっていくのかなあ。。と少し残念に思っていたのですが、このコラムを読ませていただいて、とても元気をいただきました。
返信削除幼児期の親との係わりの大切さ、そして今は自分を愛すことが、脳の活性化になると改めて理解しました。私の職場はとても愛に溢れています。自己を尊重して自由に仕事をさせてくれるので、私はいろんな仕事にチャレンジできて、脳をいっぱい使えていると実感しています。実は以前はこんな風に感じていなかった事もありましたが、職場をいごこちの良い場所だと感じることができたのは、人間関係講座で学んだスキルの成果かとも思えます。先生の書かれている、尊厳性のある生き方 とてもこころに響きました。ありがとうございます。
先生、なまえを記入せず投稿、失礼しました。先程の文は私です。次回も楽しみにしています。
返信削除ももこさま
削除そうでしたか! 還暦でいらっしゃるんですねえ! 誠におめでとうございます! 私の方はとっくにそこを過ぎてしまいましたが(笑) 人の「脳」の不思議さを理解するに従って、年齢を重ねることは むしろ素敵なことと思えるようになりました。
ももこさんの今の職場は 、とても愛に溢れ 居心地のいい場所なんですね! そのような職場にしていかれた ももこさんのことを素敵だなと思います。正直に自己表現され、相手の気持ちも大切にして 受け取っていく…という親業のスキルも きっと役に立ったのでしょうね。
ももこさん! お互いに 神秘に満ちた可能性を信じて 、命のある限り 尊厳性のある生き方をしていきましょうね。有難うございました!