Column 2014 No.11
前回は、表現力(発信)と共感力(受信)の“双方コミュニケーション”を使っての「対話力」の大切さを書きました。自己表現と傾聴(共感)についてもう少し詳しく知りたいと言う声がありましたので、これから2回にわたって今回は「自己表現」次回は「傾聴(共感)」について親業が大切にしている心を、さわりだけになるとは思いますがお伝えします。
日本人は自己表現が苦手な国民だとよく言われます。「和をもって尊しと為す」という精神を大切にしてきた日本の風土には、自己表現はあまり重要視されない歴史があったからでしょうか。
しかし相手の気持ちを大切にすることは勿論、自分の気持ちをも大切にできたとき、これこそが「和の精神」であると私自身は理解しています。
日本の子どもたちが海外でホームステイをしたときの様子を耳にしたことがあります。例えばステイ先の友達から「君、何の曲が聴きたいかい?」と聞かれると咄嗟に「何でもいいよ」と答える子が多いと聞きました。食卓に並べてあるドレッシングの中から自分の好きなものが「これが好きです」と選べない子も多いようです。しかしこれは決して子どものせいではなく私たち親が、子どもに考えさせ選択させる機会を奪ってきたことが原因でしょう。
親業では「自分を感じてください」と絶えず投げかけます。いつも自分の本当の気持ちに気付いていないと、自己表現はとても難しいのです。自己表現できる子どもに育てようとするなら、その子が体験し、感じるチャンスを奪ってはならないし、その子が選択するチャンスをできるだけ沢山与えなくてはならないでしょう。
自分の気持ちが掴めると、はじめて
「私は今こう考えています」「私は今とても嬉しいです」「私は困っています」というふうに自分の気持ちを内外一致で表現できるのです。すると相手にあなたの気持ちがまっすぐに伝わるので、本当のあなたのことが解ってもらえるのです。そして自分を語るから、何しろあなた自身が生きている実感がつかめるのです。
自分の気持ちを掴めない人はどうしても人称が第三者になりやすい。「うちの主人がこう申しています」「Aさんはこんな考えを持っているみたい」このように他の人称で話す人は、多く人間関係のトラブルを引き起こし、孤立する結果になりやすいのです。自分以外の人の気持ちは決して代弁してはならないのです。できるのは自分の内面を内外一致で表現することだけです。
自分の本当の気持ちに気付いて、それを表現してみてください。自己表現ですから、人称はいつも「わたしは」です。誰でも生きることに息詰まってしまうと、多くは苦悩や怒り、嫉妬などネガティブな感情に圧倒されてしまいます。しかしどんなにみっともないと思う感情であっても、感情は嘘偽りのない真実なのです。だから自分の一部分として抱きかかえてあげるだけの自分への愛、自分への優しさがとても大切なのです。弱さのまんまで、怒り狂ったまんまで正直に自分を語ってみましょう。
「わたしは凄く傷付いています」
「わたしはいま怒っています」
「わたしはほんとうに弱い人間なんです」
私たちは人と親密になりたいと思いながら、本当の自分を語らないために相手との壁が埋まらず、いつも寂しいのです。孤独なのです。何十年も夫婦をやりながら 今でも他人のままという方々を沢山見て来ました。
でも受講生のTさんからはこんなお便りを頂きました。
「・・・ある日わたし宛にこんな暑中見舞いの葉書が届きました。
“暑い日が続きますがいかがお過ごしでしょうか。汗だくになりながらも頑張っておられる姿をいつもまじかに拝見し、陰ながら大変感謝しております。なかなか口に出しては言えないので書面にてお礼を言いたいと思います。前向きな人生と刺激をいつもありがとう!・・・”
でも差出人の名前がありません。15分位悩みましたが、なんと夫の字だったのです。手作りの葉書に富士山の絵が描いてありました。感動で涙が溢れてしまいました。」
ご主人の自己表現が、奥様にこんなに感動を与えたのです!
*次回のコラムは8月20日前後の予定です。