Column 2019 No.68
障害は個性である…これは親業訓練協会“前理事長”であった近藤千恵が大切にしていた視点でもあります。“「個性」だからこそ親業的な対応で、その個性をつぶさないで大切に育ててください…”と。
私の講座を受講下さったM・Nさんの一文です。
「…私の長男はアスペルガー症候群です。相手の気持ちが解りにくく、自分の気持ちも言葉にすることが苦手な長男を、どうサポートしていくのがいいのか悩んでいました。親業講座を受講し、能動的な聞き方(積極的傾聴法・共感)を取り入れていくと、本人が少しずつ自分の気持ちを言語化できるようになり、今では自ら表現できるようになりました。…(中略) 今までは“コミュニケーションがうまく取れないのはアスペルガーの特徴で仕方ない”と、半ば諦めていました。しかし、諦めなくていいんだ!この聴き方を続けていくことで、長男は自己理解も他者理解も出来るようになるんだ!…と、一筋の光が見えてきました。…」
“発達障害”というネーミングは、平成17年に発達障害者支援法が施行されてから特にクローズアップされてきました。自閉症そして一部自閉症の枠組みに触れるとされる、広汎性発達障害、AD/HD、LD、アスペルガー症候群…等々のように細かく分けられ、元気のよすぎる子、集中力に欠ける子、落ち着きがない子、変わった言動がある子、困った行動をする子…などが、その範疇に入れられるようになりました。(“自閉症”の症名はすでに古くからありました)
実はこれらの診断は、医師も難しい分野と言われており、その結果、育てにくいと言われる多くの子どもが、大まかに「発達障害」の枠に組み込まれてしまっていることに、私はいささか疑問を感じています。しかし幾らかの親御さんは「私の育て方に問題があってこんな難しい子になった‥と罪悪感で苦しかったのですが、“脳機能の発達が関係する障害”…と聞いてむしろほっとしました」と言われる方も確かにあります。
私は長い間、カウンセリングの仕事もしていますので、「発達障害」の範疇にあるという子ども達にも逢ってきました。その子たちに逢って感じることは、その多くの子ども達が、とても美しく、深く澄んだまなざしを持っているということです。…なんて純粋なんだろう…と、心打たれるほどです。私には“障害”に感じられないのです。
私はお母さま方によく伝えます。「このお子さんは、とっても高い精神性をもって生まれてきています。お母さんがこの子から学ぶことも沢山あると思いますよ。特別大切に、なるべく傷付けないように育ててくださいね」…と。あるお母さんは「ほんとにそうなんです。手はかかりますけど、子どもから、驚くようなことを言われて気付かされたり、教えられることが沢山あるんです。この子に出逢わなかったら今の私は無かったと思います」と話していました。
今回は、会話ができない重度の“自閉症”という症状を持っていながら、パソコンや文字盤ポインテイングによって会話が可能になり、本の出版に至った東田直樹君を紹介したいと思います。沢山の本が出版されていますが、彼が中高生の頃に書いた「僕が飛びはねる理由」シリーズの中から“発達障害”と呼ばれる子ども達が、本当は、何を考え行動しているのか、その真実が書かれているので、その一部を紹介したいと思います。
「僕は今も人と会話ができません。自閉症という障がいを抱えて生きています。…この社会は沢山の人々で構成されています。その中で自閉症者も生きているのです。そのことを少しだけ気にかけて下されば、自閉症者にとって今よりずっと生きやすい世の中になるのではないでしょうか」
「僕の口から出る言葉は、奇声や雄叫び、意味のない独り言です。僕が普段している“こだわり行動や飛びはねる姿”からは、僕がこんな文章を書くことは誰にも想像できないでしょう…」
「特に困っているのは、本当の自分を解かってもらえないことです」
「僕が飛び跳ねることの理由には、手足の位置がわかることによって、自分の存在が実感できること、空に向かって気持ちが開くことなどもあります。空に向かって気持ちが開きたくなるのは、人では、僕の気持ちを受け止めきれないと思っているからです」
自閉症をはじめ、発達障害と呼ばれる子ども達の多くは、確かに表向きには、奇異な行動や、理解できにくい“こだわり言動”が多く現れますが、しかし実は、こんなにも彼らには、自分の世界や周りの世界が、鮮明に見えているのです。真実を見通すまなざしをもっているのです。言葉にはできないけれど、精神性の高さ、深さを持っているのです。
それだけに、発達障害の子ども達をどうするか…という外側からのアプローチだけではなく、彼らの内面にある真実や、葛藤、哀しみを解かってあげようとする、冒頭に紹介したM・Nさんの例のように、内面へのアプローチがとても大切に思います。障害と見えていても、彼らはまさに正常なのですから。
その方法として親業が大切にしている能動的な聞き方(積極的傾聴法・共感)<コラムNo12・No42>は、とても役に立つと思います。 語りたくても語れない内面の本当の気持ち…を汲みとって、言葉にしてあげたり、共感したりしていくことで、やがてその子のハートや魂に触れていくことができるでしょう。それは,彼らの、途方もない孤独感と共にいてあげられる方法でもあり、それを解放してあげる方法でもあります。東田直樹君はその辺りの願いを率直に表現しています。彼の真実を紹介して今回のコラムを閉じたいと思います。
「つらい気持ちはどうしようもありませんが、ひとりではない…と思える瞬間がぼくを支えてくれます」
「ぼくがパニックになった時、“一人になってクールダウンしたほうがいい”という人もいます。…人それぞれかもしれませんが、ぼくはそんなとき、ひとりになりたくありません。パニックになった時も傍にいてくれて、手を握って僕の気持ちに共感してくれるとうれしいです」
「答えられない時には、僕が答えられるまで待ってください。答えられない時には…こういう気もちなのかなと、僕の思いを代弁してくれると嬉しいです。たとえその答えが違っていても、僕の気持ちを一生懸命に考えてくれることは、僕を大切に思ってくれていることだとわかるからです」
私の講座を受講下さったM・Nさんの一文です。
「…私の長男はアスペルガー症候群です。相手の気持ちが解りにくく、自分の気持ちも言葉にすることが苦手な長男を、どうサポートしていくのがいいのか悩んでいました。親業講座を受講し、能動的な聞き方(積極的傾聴法・共感)を取り入れていくと、本人が少しずつ自分の気持ちを言語化できるようになり、今では自ら表現できるようになりました。…(中略) 今までは“コミュニケーションがうまく取れないのはアスペルガーの特徴で仕方ない”と、半ば諦めていました。しかし、諦めなくていいんだ!この聴き方を続けていくことで、長男は自己理解も他者理解も出来るようになるんだ!…と、一筋の光が見えてきました。…」
“発達障害”というネーミングは、平成17年に発達障害者支援法が施行されてから特にクローズアップされてきました。自閉症そして一部自閉症の枠組みに触れるとされる、広汎性発達障害、AD/HD、LD、アスペルガー症候群…等々のように細かく分けられ、元気のよすぎる子、集中力に欠ける子、落ち着きがない子、変わった言動がある子、困った行動をする子…などが、その範疇に入れられるようになりました。(“自閉症”の症名はすでに古くからありました)
実はこれらの診断は、医師も難しい分野と言われており、その結果、育てにくいと言われる多くの子どもが、大まかに「発達障害」の枠に組み込まれてしまっていることに、私はいささか疑問を感じています。しかし幾らかの親御さんは「私の育て方に問題があってこんな難しい子になった‥と罪悪感で苦しかったのですが、“脳機能の発達が関係する障害”…と聞いてむしろほっとしました」と言われる方も確かにあります。
私は長い間、カウンセリングの仕事もしていますので、「発達障害」の範疇にあるという子ども達にも逢ってきました。その子たちに逢って感じることは、その多くの子ども達が、とても美しく、深く澄んだまなざしを持っているということです。…なんて純粋なんだろう…と、心打たれるほどです。私には“障害”に感じられないのです。
私はお母さま方によく伝えます。「このお子さんは、とっても高い精神性をもって生まれてきています。お母さんがこの子から学ぶことも沢山あると思いますよ。特別大切に、なるべく傷付けないように育ててくださいね」…と。あるお母さんは「ほんとにそうなんです。手はかかりますけど、子どもから、驚くようなことを言われて気付かされたり、教えられることが沢山あるんです。この子に出逢わなかったら今の私は無かったと思います」と話していました。
今回は、会話ができない重度の“自閉症”という症状を持っていながら、パソコンや文字盤ポインテイングによって会話が可能になり、本の出版に至った東田直樹君を紹介したいと思います。沢山の本が出版されていますが、彼が中高生の頃に書いた「僕が飛びはねる理由」シリーズの中から“発達障害”と呼ばれる子ども達が、本当は、何を考え行動しているのか、その真実が書かれているので、その一部を紹介したいと思います。
「僕は今も人と会話ができません。自閉症という障がいを抱えて生きています。…この社会は沢山の人々で構成されています。その中で自閉症者も生きているのです。そのことを少しだけ気にかけて下されば、自閉症者にとって今よりずっと生きやすい世の中になるのではないでしょうか」
「僕の口から出る言葉は、奇声や雄叫び、意味のない独り言です。僕が普段している“こだわり行動や飛びはねる姿”からは、僕がこんな文章を書くことは誰にも想像できないでしょう…」
「特に困っているのは、本当の自分を解かってもらえないことです」
「僕が飛び跳ねることの理由には、手足の位置がわかることによって、自分の存在が実感できること、空に向かって気持ちが開くことなどもあります。空に向かって気持ちが開きたくなるのは、人では、僕の気持ちを受け止めきれないと思っているからです」
自閉症をはじめ、発達障害と呼ばれる子ども達の多くは、確かに表向きには、奇異な行動や、理解できにくい“こだわり言動”が多く現れますが、しかし実は、こんなにも彼らには、自分の世界や周りの世界が、鮮明に見えているのです。真実を見通すまなざしをもっているのです。言葉にはできないけれど、精神性の高さ、深さを持っているのです。
それだけに、発達障害の子ども達をどうするか…という外側からのアプローチだけではなく、彼らの内面にある真実や、葛藤、哀しみを解かってあげようとする、冒頭に紹介したM・Nさんの例のように、内面へのアプローチがとても大切に思います。障害と見えていても、彼らはまさに正常なのですから。
その方法として親業が大切にしている能動的な聞き方(積極的傾聴法・共感)<コラムNo12・No42>は、とても役に立つと思います。 語りたくても語れない内面の本当の気持ち…を汲みとって、言葉にしてあげたり、共感したりしていくことで、やがてその子のハートや魂に触れていくことができるでしょう。それは,彼らの、途方もない孤独感と共にいてあげられる方法でもあり、それを解放してあげる方法でもあります。東田直樹君はその辺りの願いを率直に表現しています。彼の真実を紹介して今回のコラムを閉じたいと思います。
「つらい気持ちはどうしようもありませんが、ひとりではない…と思える瞬間がぼくを支えてくれます」
「ぼくがパニックになった時、“一人になってクールダウンしたほうがいい”という人もいます。…人それぞれかもしれませんが、ぼくはそんなとき、ひとりになりたくありません。パニックになった時も傍にいてくれて、手を握って僕の気持ちに共感してくれるとうれしいです」
「答えられない時には、僕が答えられるまで待ってください。答えられない時には…こういう気もちなのかなと、僕の思いを代弁してくれると嬉しいです。たとえその答えが違っていても、僕の気持ちを一生懸命に考えてくれることは、僕を大切に思ってくれていることだとわかるからです」