2021年1月20日水曜日

自分のものさし 相手のものさし それぞれ寸法がちがうんだな

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自分のものさし 相手のものさし
それぞれ寸法がちがうんだな
相田みつを
Column 2021 No.92

 相田みつを氏がいう「ものさし」とは、“価値観の捉え方”のことを指しており、ものさしと言えども、一人ひとりの目盛りが違う(感性が違う)ので、価値観の感じ方、捉え方には幅がある…ということを、ユーモラスに表現しているわけですね。「価値観」とは、一人ひとりの、ものの感じ方・信条・趣味・人生観…等々を言い、何を選び、どう感じるかについては、第三者に影響を与えない限り自由に選択できる権利を有するものです。

 親業では、誰かと“価値観の対立”が生じた場合、それに権力(暴力・脅迫・命令・侮辱・非難・講義・説教…等々)を使うと、親子であっても関係性は大きく損なわれていく危険性をはらんでいると唱えており、力を使わない係わり方を提供しています。ずっと以前、TVのコマーシャルにお父さん(武田鉄矢)が登場して「どんなに嫌われても、自分が正しいと思うことは子どもに押し付けます。うるさいおやじほどあったかい…」というフレーズがあって、当時とてもヒットしたのですが、しかしこれは絶対にうまくいきません。

 親に迷惑をかけていることであれば、子どもは厳粛な気持ちでそれを受け止めて、行動を変えようとしますが、「あの友達とは別れなさい!」「その格好は何だ!」「好きなことばかりして生きていけると思ったら大間違いだ!」「勉強ができないで厳しい世の中を生きていけると思ってるのか!」…等々。親に具体的な影響(迷惑)を与えていないと子どもが感じていること、つまり“価値観”に関して権力を使われると、相手が親と言えども、子どもは猛然と戦います。

 しかし親ですから、我が子が心配な友達と付き合っていればやはり心配ですし、勉強をやらない子供を見ると将来大丈夫かなあ…と心配するのは当たりまえですよね。ただ、それを権力で接することが危険なのです。以前出逢った青年が言いました。「こっちの言い分は一切聞かないで、いっぱしの正論を押し付けて、教育したつもりでいる。いつもやりきれなさが残る…。いつかやっつけてやりたい気持ちがあるが、正直言ってもういい!係わりたくないという気もちが強い…」と。

 親業を学ばれたあるお父さんと、お子さんとのやりとりです。次のような会話であればどうでしょう。(おやぎょう機関誌掲載)

 父「宿題はしたのか」
 子「してない」
 父「宿題をしていかないと、お前が先生に叱られはしないかと心配だよ」
 子「心配しなくてもいいよ」
 父「そうか、心配いらないのか」
 子「うん、あとでやるから」
 父「やるつもりなんだな」
 子「ああ、そうだよ。叱られたくないもん」
 父「安心したよ」

 父親は権力を使わないで、ただ正直に心配な気持ちだけを伝えています。そして子どもからの言い分に対しても、決して押さえこんだり、無視することなく共感で返しています。親業で大切にしている価値観の伝え方のひとつです。

知識は多いほどいい。知らないより知っていた方がずっといい。
けれども、固定観念と先入観は“百害あって一利なし”
野村 克也

 私たちは幼い頃から、親や周りから刷り込まれた価値観によって、無意識にそれに応えようと、自分に厳しく真面目に、切磋琢磨して生きてきました。しかし一生懸命に生きて来たはずなのに、人生がどんどんつまらなくなってきた…ということはなかったでしょうか。「真面目に努力しないと幸せになれないよ」「人生はお前が考えているような甘いもんじゃないぞ」…といった親や世間から刷り込まれた価値観に完璧に嵌ってしまって、本当は自分がどう生きたいのか、何をしたかったのか…が分からなくなってしまい、人生の迷い子になってしまった状態です。

定説に捉われてはいけない。それは他の人の考え方を生きていくことだ
ステイーブ・ジョブズ

 親業では“欲求充足こそ人生の目的です”と提言していますが、これまでとは異なる価値観に接したとき、頭では納得できるけれども、刷り込まれた価値観との軋轢が起って、なかなか行動に移せず、楽しむことができない…という気もちをよく聞きます。私自身も体験しているのでその気持ちは痛いほど解ります。

 本当は私たちの人生は可能性に満ち満ちているのです。どう生きていきたいかを選択する“自由と権利”があるのです。何だか生きづらい、生きることが何だかつまらないと感じる…とき、私たちは知らず知らずに、古い価値観や観念に縛られて生きているのです。このことにはっきり気付くことが大切です。

 自分が頑なに信じてきた価値観や観念をもう一度しっかり眺めて、自分にとって本当に心地いいものかどうかを調べてみましょう。気づくことは、洗い直しをすることでもあり、乗り越えることであり、自分軸をしっかり取り戻すことでもあります(コラムNo85

人によって、価値観や好みは異なるわけですから、幸せの形も違ってあたりまえ。マスコミや世間が押し付けてくる幸せの基準を、ちょっと脇にどけて、一度じっくり考えてみて下さい。自分はほんとうは何が好きなのか。何をしているとき幸せだと感じるのか。気持ちよく生きていくために何が必要で、無くても困らないものは何なのか。どんな自分になりたいのか…とね
斎藤 茂太

*次回のコラムは2021年2月20日前後の予定です。

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