Column 2014 No.12
市内の電車の中で二人の婦人の会話が耳に入ってきました。
A婦人 「私ね、この連休に東京に行ってきたのよ!」
B婦人 「私は岡山の美術館に行ってきたの!」
A婦人 「東京ってやっぱり都会よねえ!活気があるし見たいものはなんでもあるし!」
B婦人 「美術館で私は久々に心が洗われたわあ!」
A婦人 「都会ってやっぱり洗練されてていいよ!」
B婦人 「あなたってさっきから都会都会って言ってるけど、地方には地方のよさがあるんじゃない?都会コンプレックスじゃないの?・・・・」
A婦人 「・・・・・・・・・」
B婦人 「・・・・・・・・・」
ざっとこんな会話でしたが、どうやら二人の会話は途中で止まってしまい、気まずい雰囲気が漂ったようでした。こんな会話って結構多いと思いませんか。相手側の発言を聞いているのかいないのか、お互いに自分の言いたいことだけを言い放っています。
もしこの会話が次のようであればどうだったでしょう。
A婦人 「私ね、この連休に東京に行ってきたのよ!」
B婦人 「そうなの!東京に行ったんだね・・・。実は私は岡山の美術館に行ってきたのよ!」
A婦人 「そう!美術館もいいよねえ。東京もなかなかよ。活気があるし見たいものはなんでもあるし・・・」
B婦人 「そうね!さすが東京よね。それでどこに行ったの?」
A婦人 「うん、六本木あたりを散策したのよ。楽しかったよ!・・・・ところで美術館はどうだったの?」
このような会話の運び方が実は、共感(親業では能動的な聞き方)をベースにした自分も相手も大切にしたコミュニケーションです。この流れの会話であれば、B婦人の「・・・・都会コンプレックスじゃないの?・・・・」のような皮肉っぽいメッセージは決して出てはこなかったでしょう。
次の例は保健師(Mさん)と82歳の老婦人(Kさん)の会話です
Kさん 「こんな体になって、早くお迎えが来なくてはいけません」
Mさん 「早くお迎えに来てほしいんですねえ」・・・・・・・・共感
Kさん 「早く死ななきゃいけません」
Mさん 「死にたいようなお気もちなんですねえ・・・」・・・・・・・・共感
Kさん 「みんなに迷惑をかけているから死んだ方がいいの」
Mさん 「みんなに迷惑をかけていると思うから早く死んだ方がいいと思うんですねえ」・・・・・・・・共感
Kさん 「そうなんよ!・・・・でも死にたくないよ!死にたくないんよ!」
Mさん 「本当は死にたくないんですねえ・・・」・・・・・・・・共感
Kさん 「うん・・・」
Mさん 「そうね。お迎えが来るまではちゃんと生きとかんといけんのよ!Kさんの世話をするのはみんな嫌じゃないんよ。ご飯をいっぱい食べてみんなを喜ばせてね」・・・・・自己表現
Kさん 「はい!」
Mさんの感想:
何度もKさんに会っていますが「死にたくない」という本音を聞いたのは初めてでした。共感をもって能動的に聞くということは、無心になってその人の思いをそのまま受けとめることなんだと思いました。ごまかしたり慰めたりするのではなく、相手のそのままの気持ちを丸ごと受け止めることなんだと知りました。無心に聴くことで相手が結論を出すことをお手伝いできるのです。
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共感的コミュニケーションのポイント
☆ 相手が言ったことを黙って聴いたり、あいづちを打ちながら聴く
☆ 相手が言ったことをそのまま繰り返してみる
☆ 相手が言っているその背景にある気持ちを汲んでみる
これは簡単なようですがやはり練習が必要です。
特に子どもを育てている親御さんは、子どもを自立させるためには何はともあれ共感力が要ります。親の考えを受け入れ過ぎて自分の人生が生き辛くなっている子ども達をあまりにも沢山見てきました。
子どもが今考えていること、またその子の心の中におき湧いている嬉しい気持ち、悲しい気持ち、つらい気持ち、悔しい気持ちをそのままに受け止め、共感力で受け入れていく。すると感情が発散でき、その子の中にある混乱が自然に整理できていくのです。
そして見失っていた自分を取り戻していけるのです。気持ちが整理できたら、やがてその子の中からその子なりの答えが必ずやってきます。またその答えで生きさせてみることが、その子どもの真の自立へのプロセスに大きく繋がっていくのです。
多くの心理学者や精神科医は研究の結果次のように言っています
当人の考えた解決策に従わせることが一番信頼できる。
当人の人生において彼の考えた解決策はどんなものであれ、
実は当人にとって一番ベストな解決策である。
*次回のコラムは9月10日前後の予定です。