Column 2015 No.31
今日という日は、あなたの残りの人生の最初の日です- チャールズ・デイードリッヒ -
このフレーズに出逢ったとき、本当は当たり前のことなのに、私は少なからず衝撃を受けたのでした。 そうかあ! 今日のこの“今の瞬間の私”は、これから訪れる人生の中で、“いちばん若いわたし”でいるわけなんだなあ……と。
「今」という位置の視点を変えてみたら、こんなに興味深く、面白い“見かた”ができるんだ!…ということに、今さらながら気づいて、驚いたのでした。
先日、久々にある友人に会いました。彼女は会うなり「あ~あ、歳をとったらいいことってあんまりないわよね…。あんなに好きだった本も読みにくくなってきたし、もの覚えも怪しくなってきて…」と、かなりテンションが下がっている様子でした。とっても共感できるので、私は「そうねえ、うんうん…」といつもの調子で聴いていましたが、ふっと冒頭の“今日という日はあなたの残りの人生の最初の日”という言葉が頭をよぎったのです。
そうだ…と思って、その友人にこのフレーズを紹介してみたのです。すると彼女は瞬間、目を輝かせてこう言ったのです。「…ほんとねえ!目はかすむ、もの覚えは悪い…と嘆いているけど、これからの人生を考えたら、今日が一番若いわけよねえ…。なるほどお~。よっしゃ!ちょっと感覚が違ってきた!」…と。 それから数日後に彼女からメールが入りました。「…私の人生で今日が一番歳を取った日、という感覚でこれまで生きてきたけれど、あれから私ねえ。ほやほやの“今の若さ”を楽しむことにしたの!」という彼女らしい名言に、あらためて感心して “そうだわ! 私も、ほやほやの今日の若さを、楽しまなきゃあ!”とさらに決意(笑)を固めたのでした。
人間って面白いですねえ。見かたが変われば人生が変わる…過去を見つめて加齢を嘆くのか、未来を見つめて“今の若さを楽しむ”…のかでは、おそらくこれからの人生は大きく変わってくるでしょう。皺やシミ(加齢)と闘うアンチ・エイジングはやめられないけれど(笑)今は“アンチ”と言うよりは、今あるもの(皺やシミ)への、愛おしさや優しさで、少しばかり接することができるようになったなあ…という気がしています。
ところが、今のひとときを楽しむ…。今の若さを楽しむ…と言いながら、私自身、何と、忙しく慌ただしい毎日を過ごしていることでしょう。 時に、足を止めて思うのです。“慌ただしいだけの人生では終わりたくないなあ…”と。しかしなかなか“やまらない止まらない”…の繰り返しです。(笑)
事実、仕事が好きなので、結果的に忙しくなることは確かなのですが、しかし、よく感じてみると、実際は頭の中の方が、実は忙しいんですね。あれをやっておかないと、これをやっておかないと…。あの人は大丈夫かなあ、この人は…と。未来への備えに奔走したり、周りへの余計な気遣いをしたりで、何故か“いま”のこのひとときにおれないときがあるのです。 すると無意識に自分の軸がどんどんずれていきます。ずれてくると体調にきたり、生きる実感が掴めなくなって、やがてテンションがさがってきます。
さてコラムNo16に取り上げた偶然に出会った、ある女子会グループの興味深い会話を思い出したので、再び取り上げてみます。
A婦人
「・・・(これまでの)10年を100万円で取り戻せるんだったら、買い戻したい気持ちよ!…」
B婦人
「でもねえAさん、10年後には68歳じゃろ…また同んなじことを言うんじゃない? 悔しい!10年を100万円で買い戻したい・・と」
BさんのメッセージでAさんは気づきます。「ほんと…また同じことを言うんじゃろうねえ。何とか今を充実して生きていかんといけんねえ…」と。
考えてみると、私たちもA夫人のように、過去に目を向けて、ああすればよかった、こうすればよかった…と後悔と懺悔の念で、今の大切なひとときを色ぬってしまいやすいですね。あるいは未来への不安に圧倒され“備え”に奔走することで、多くの時間を費やしてしまっているような気もしますね。大切な残りの人生の最初の日の“今日”を無駄にしていることに気付かないままに・・・。
生きることに迷ったら自分に返る・・・このスタンスを思い出しては、軌道修正し、そう!「いま!今!」と、気持ちに“仕切り直し”をしては、これからも生きていきたいと思います。そして、一日一日を、産声を上げる気持ちで迎え、冒頭のフレーズの“今日の若さ”を楽しむことにします。だって残りの人生の中の一番の“今日の若さ”を楽しまないという“手”はありませんものね・・・。
次の天風氏のフレーズに思わず笑ってしまいましたが、まさしく!と、共感したことでした。
一度だけの人生だ。だから、今この時だけを考えろ。
過去は及ばず。未来は知れず。
死んでからのことは宗教にまかせろ。
過去は及ばず。未来は知れず。
死んでからのことは宗教にまかせろ。
中村天風
*次回のコラムは1月20日前後の予定です。