Column 2014 No.18
ずっと以前のことですが、ある集いに参加した折、人間の感情についての話題になったとき、ある女性が「私はこれまでの人生で一度も怒ったことがありません・・・・」といった意味合いのことを言われたので、私はとても驚いて咄嗟に「Aさん、病気をなさいませんか」とつい聞いてしまいました。その方は即座に「はい、突然倒れたりして時々救急車で運ばれることがあります」と答えられ、そうだろうなあ・・・・と合点したことでした。
人間をやっている以上、怒りを感じない腹を立てない人間はまずいないのです。怒りを抑え、腹立ちを抑える人間がいるだけです。そして感情の中でも特に強い感情である“怒り”とか“恐怖心”の感情を抑え続けてしまうと、必ずといっていいくらい色々な障害を生みます。これは心理学者、精神科医も証明しているところです。
ある外国の精神科医による興味深いレポートを読んだことがあります。
大地震、ブレーキが利かなくなったバス、ハイジャックされた飛行機・・・・など異常事態が発生したとき、そのトラブルにたまたま遭遇した人々(勿論、遭遇はしたけれど一命を取り留めた人々を対象に)心理的な追跡調査した結果の報告です。トラブルに遭遇した人々は一応に、心理的な大きなダメージを受けるので、その心理的外傷を癒す為に精神科医がそのフォローに当たります。その癒しのプロセスの興味深い臨床結果を報告したものでした。
それによると、一番厄介だったのは、衝撃的なトラブルに遭ったにも拘らず、そのトラブルに平然と対処した人々のグループだったと報告しています。一方トラブルに遭遇したとき、取り乱したり泣き喚いたりした人々のグループは、興味深い結果ですが、最も立ち直りが早かった。それは恐怖の感情をその場で正直に感情表出したことが益となった。一方トラブルに冷静に対処し、下乗後も堂々とインタビューに応じたような人々は、数日後或いは数週間後に不眠を訴えたり、夜驚や徘徊行動などの異常な心理的反応を多く示したといいます。しかもアフターケアの長さは、トラブル後、不眠・夜驚・徘徊・・・等に伴う感情表出に至るまでの期間の長さに比例したと報告しています。
この臨床結果からも、人は感情表出によって精神(心)の状態のバランスをとっているということがよく理解できます。自分の感情に正直に対峙せず、感じない振りをしたりごまかしたりすると、感情は昇華されないまま抑圧され、結果的にその人の身体的なものに、或いは生き方に微妙に悪影響を及ぼしていくのです。
尤も人間は実に絶妙にできていて、抑圧したネガテイブな感情を無意識ですがさまざまな形でバランスをとっていきます。健康上のトラブルで抑圧感情を表出していくことは勿論ですが、不機嫌・短気・逆上・・・など別の感情でバランスをとったり、癇癪・人を責める・DV・物に当たる・・・のように攻撃的傾向で表出している人もあります。過食・拒食・アルコール依存・薬物依存・恋愛依存・・・等々の依存的傾向でバランスをとる人もあります。またかげ口・悪口・噂話など正当化でのバランスもあります。
もっともこれらの多くはカウンセリングの場面で接したケースで、生育歴に端を発している場合が多く、皆“いい人”をやってきた人達です。耐えて我慢して、他者の人生のために自分の人生を犠牲にしてきた人達です。怒りの感情も不安の感情も感じないふりをしないとやってこれなかった。程度の差はありますが、幼い頃から喜怒哀楽の感情を抑えることが日常的だったのです。
しかしカウンセリングの場で、自分を語ることを通して、ご本人が自分の生い立ちを理解し、そして許し、徐々に自分の今の感情にきちんと対峙できるようになるに従って、健康になっていかれるケースを沢山見てきました。
怒りの感情も恐怖の感情も、正当な感情です。親業ではネガテイブな感情もポジテイブな感情も同じ位置で大切に考えています。本当に怖いとき、怖がる自分を許し「怖い!」という感情を受けとめてあげるから情緒が安定するのです。また不安や恐怖心があるから、あなたは危険な場所や猛獣に近づかないのです。実はネガテイブな感情はあなたを守ってくれているのです。
ただ、あなたを圧倒するほどの不安・恐怖は減らしてあげないと、生きづらくなりますよね。そこで親業では人間関係を壊さない形で怒りの感情を表現する方法を学びます(コラムNo11、No12参照)しっかり感じてあげて気付いてあげて、表現したいと思うことは表現し、心の中で整理できるものは整理して、そしてあとは果敢に手放していく・・・・。感情もエネルギーですから感じてあげたらあとは流してあげる方がいいのです。
このプロセスこそが真の癒しなのです。感情は生きています!あなたの子どもです。愛して大切にしてあげてください(コラムNo1、No9参照)
ネガテイブな感情も優しく見つめてあげて下さい。
それを味わうために人として生まれてきたのだから
日木流奈
頭で何かを考えることを少しやめて、
胸に注意をするようにしてごらん。
そうすれば多分感じることができるよ!
*次回のコラムは1月10日前後の予定です。