2024年9月20日金曜日

Talk less Act more

 2024年 講座開講スケジュール 2024年講座予定公開中

 下村亮子チャンネル『 TRUST YOUR FEELING - あなたの中の答えを信じて 』  Youtube音声番組を始めました。聞いてみて頂けると嬉しいです。

Column 2024 No.136

 今回のタイトルは「口数を少なく行動を多く」という西洋に伝わることわざのひとつです。昔から“子どもは親の言う通りには育たないが、親がするようには育つ”といった意味合いの格言もありますが、特に子どもを導いていく上ではガミガミと言って聞かせるよりは、行動して見せる方が、より子供の心に入る…というわけです。

 最初はマネみたいなところから始まりますよね。
 色々な人のフォームをまねしたりして、
 何となく今の自分がいるという感じはありますよね
 イチロー選手

 「親業」のセミナーでは、子どもの問題行動に関して色々な解決方法が示されていますが、中でも「模範を示す」つまり子どもに強要する前に、まず親自身がやって見せる…という方法は、多くの解決策の中でも、最も子どもの心に大きな影響を与えます。イチロー選手のフォームが、実は模倣することから始まり、その結果、彼のオリジナルなスタイルが出来上がったように、子どもが自分の独創性に辿り着くための第一歩として、多くは親を見て学んでいるのですね。

 N子ちゃんは“挨拶ができない”…ということをクラスの先生から指摘されたり、おばあちゃんから注意されたりすることがあって、そのことを悩んでいたお母さんは、少し神経質になってしまいました。その都度N子ちゃんに「あいさつは?」「こんな時にはありがとうと言うのよ!」と、教えるのですが、N子ちゃんは一向に出来る気配がありません。

 その後、「親業」を学ばれたそのお母さんは、子どもを急(せ)かしていくことを辞めてみました。そして“まず自分からやって見せよう”ということに気づかれたのです。朝起きてきたN子ちゃんに「おはよう!は?」と急かす代わりに、お母さん自身の方から「N子ちゃんおはよう!」と言ってみたのです。N子ちゃんの反応を期待することなく、「N子ちゃんありがとう!」「N子ちゃんいってらっしゃい!」毎日お母さん自身から無心にやってみられたのです。

 初めは何の反応も無かったようですが、やがてお母さんの声掛けに対して、小さな声ですが、N子ちゃんの「おはよう…」「有難う…」が少しずつ返り始めたそうです。お母さんは「親業」で学習した肯定の気持ちを表すことも忘れませんでした。「N子ちゃんの“おはよう”と言う挨拶を聞くと、お母さん凄く元気がでてくるよ!」と。

 それから何か月か経った頃、N子ちゃんの方から少しずつ「おはよう」「ありがとう」「行ってきます」「ごめんなさい」…等々のあいさつが出てくるようになったそうです。N子ちゃんが、これまであいさつ出来なかったひとつの理由は、そのあいさつ言葉を、どこでどう伝えていいのかが理解できていなかったということもあったようで、お母さんが適材適所でやって見せることで、N子ちゃんは一つずつ飲みこめていったようでした。これは親が“模範を示す”ことで、子どもの困った行動に対処していく「親業」が示すひとつの解決方法です。

 モデリングは、人生を成功させるマスターキーである
 ジェームス・スキナー

 しかし子どもに一番影響を与えているのは、親が無意識に取っている行動です。あるお母さんは、長男が弟に「お前頭悪いなあ」と言っている言葉が気になって「そんな人を侮辱するような言い方はやめなさい!」と注意したら「だってお母さん僕によく言うじゃない!」と反発したそうです。お母さんはよくよく自分のやっていることを思い返してみると、確かに長男に対して日頃、無意識にそれに近い言葉を出していることに気づかれたのでした。

 次は保育士をしている受講者の方から伺ったお話ですが、園児のK君が絵本を読む時、唾(つば)でびちゃびちゃになった指でめくるのを見かねて「K君そんなに唾のついた指で絵本をめくらないの」と言ったらすかさず「先生がやってるもん!」と言ったそうです。初めは意味が解からなかったそうですが、「指が乾燥してページがめくれない時、大人ってちょっと唾をつけてめくりますよね。K君はそれを見ていて自分もやってみたかったのでしょうか。笑ってしまいました。無意識にやっている教師の一挙手一投足を、子どもはじっと見ているんですねえ。驚きました」と話していらっしゃいました。

 さて、子どもに影響を与えているのは周りの大人や親ばかりではありません。出どころは不明ですが、ある実話をご紹介致しましょう。

夫を海の事故で亡くしたある母親は、三人の息子が成長しても決して船乗りにはさせないと決心して、子ども達にその思いも伝えていました。ところが息子たちは、年頃になると、一人また一人と家を去って、みんな海に出てしまいました。その母親はとても落胆して、なぜあれほど自分がいやだと思っていた船乗りにみんななってしまったのだろう…と考えていると、ふとその理由が分かったような気がしたのです。彼らの部屋には荒海を力強く乗り切っている一枚の美しい帆船の絵が壁いっぱいに貼ってあったのです。母親の努力を無にさせるほどの感化を与えたのは、実はこの一枚の絵だった…ということをその母親はその時確信し、愕然としたというのです。

 子どもは“環境の子”と言われます。部屋に貼られた一枚の帆船の絵が、子ども達の心の中に“海への憧憬”を静かに育てていたのですね。言葉よりも周りにある環境が、子どもの心に大きな影響を与えている…ということを示しています。

 そう考えると、“親”の存在は、子ども達にとって大きな環境のひとつになっているのですね。“幸せに生きている親の姿”が子どもの環境になっていたら、幸せとは何?と求めなくとも、子ども達は自然に幸せをつかむことができるでしょう。私たちは、子どもの幸せを願いながらも、つい怒ったり愚痴ったりしている姿を多く子どもたちに見せています。

 かけがえのない一度の人生です。親も子ども達も、みんな幸せに生きていきたいのです。まず親自身が真に幸せと感じることを、ひとつでも沢山自分自身に与えてあげて、生き生きと生きている親の姿を、子ども達の環境に加えてあげたいものですね。

*次回のコラムは2024年10月20日前後の予定です。