2020年10月20日火曜日

がんばらない がんばらない

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がんばらない がんばらない
ひろさちや
Column 2020 No.89

 吉田兼好の「徒然草」の第39段に、法然上人のエピソードが書かれています。ある人が法然上人に「念佛の時、睡りにをかされて行を怠り侍ること。いかがして此の障りをやめ侍らん」その意味は“念仏しているときどうしても眠くなって困ります。どうしたらよいですか”とたずねた。法然上人は「目のさめたらんほど念佛し給え」“それなら目が醒めたときに、念仏をされるとよい”という一節があります。何だか心がほっこりとするような法然上人の言葉です。

 その時代の宗教界の掟はかなり厳しいものがあったと思われる中で、この法然上人の赦しのエピソードは心に沁みてきます。私たちは頑張ろうとしても頑張れない時があるし、やらねばならないことがあっても前に進めないこともあります。そんな時“出来るときにやればいいんだよ…”という法然上人の“そのままでよい”という深い容赦の精神は、私たちの心を温かく包み込んでくれます。

 日本人の価値観には「頑張ること、耐えること」への価値・美意識が、長い歴史の中で、大変重要視されてきました。その精神によって培われた、日本人の我慢強さや真摯で謙虚なふるまいは、美談として諸国にも認められるほどです。またその精神は日本産業の発展にも大きく寄与してきました。しかし反面、外交の場にあっては、その精神が優先するためか、言うべきことを率直に表現しない為に、誤解を生んだり、苦汁を飲む結果になってしまうことも起っています。

 日本人の真摯で謙虚なそれらの素晴らしい気質は決して失いたくはありません。それをしっかり底辺に持ちながら、私たち一人ひとりを含めて、今少し緊張を解き、息を抜いてリラックス精神を取り戻して、正当な持論であれば堂々と主張していけたら、やがて日本という国は、とてもいいバランスを取り戻していけそうな気がします。

 子どもは「がんばってね!」という言葉を嫌います。しかし、朝出掛ける子ども達に「がんばってね!」と多くのお母さんが、つい無意識に発してしまっています。だからでしょうか。子ども達が友だちと別れるときにもひとつの挨拶のように「がんばってね!」と言い合っていますよね。

もう頑張らなくていいんだよ。もう十分頑張りました。
ゆっくり休もう。そしてゆっくり待とう。
水谷 修

 ただ、ほんとうに惹かれること、好きなことをやっている人を周りから見ると、猛烈に頑張っているように見えることがあります。しかし本人はちっとも頑張っているのではない。心がわくわくして時間が経つのも忘れて惹かれることに没頭している姿なのです。そんな体験は私たちにもこれまでになかったでしょうか。自分が本当にやりたいことを、自分の心が喜ぶようなやり方でやっているときです…。

何か“これ!”と思ったら、他人の目ばかりでなく自分の目も
気にしないで、委縮せず、ありのままに生きていけばいい。
つまり、駄目なら駄目人間でいい…と思って、
駄目なりに自由に何の制約も受けないで生きていく。
岡本 太郎

 岡本太郎の「他人の目ばかりでなく自分の目も気にしないで…」のフレーズに、なるほど!と、共感がありました。実は私たちは、他人の目よりも厳しい自分の目が、前に進むことを拒んでしまっていることに気付きます。それが私たちの前進を阻む重い‟“鎖”になってしまっている。そのことに気付くことがとても大切に思います。

 「もしあなたの人生に全く制約が無いとしたらあなたは何がやりたいですか」と、親業主宰の人間関係講座の中でも問いかけがあります。その時に浮かんでくるあなたの内側の答えが、実はあなたの真実なのです。岡本太郎が言っているように、自分が仕掛けた自分への制約つまり“鎖”が、私たちの真の欲求を見えないようにしてしまったのです。

壁は 自分自身だ!
岡本 太郎

 日本語には聴いているだけで息が抜けるような素敵な言葉が沢山あります。「羽を伸ばす」「一息入れる」「一服する」「裃(かみしも)を脱ぐ」…等々。裃(かみしも)とは江戸時代の武士の礼服で、武士ですから、裃を着ている間は全く息は抜けません。もしかしたら日本人の魂の中には、まだ裃を着た“武士道精神”が、今も息づいているのでしょうか。

 「武士は食わねど高楊枝」という俗諺(ぞくげん)があります。その意味は“武士というものは貧しくて食べるものがない時にでも、いま食べたばかりのように装って、悠々とつま楊枝(つまようじ)を使う…” 武士はそうやってまで誇り高く生きたのでしょう。でも、つらそうですね…。もうそろそろ、裃(かみしも)を脱いで、「自分道精神」で、自分の本当の気持ちを大切にして生きていきたいものですね。自分で自分を遮っていた“壁”に気づき、本気で息を抜いて、しかし自分の真実から目を逸らさない。他者のためではなく、まず自分の為に生きていきたいものです。

迷ったら、自分にとって楽な方に道を変えればいいんじゃないかしら。
どうぞ、物事を面白く受け取って、愉快に生きて! 
あんまり頑張らないで。そしてへこたれないで!
樹木 希林

*次回のコラムは11月20日前後の予定です。

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4 件のコメント:

  1. 法然上人は人を心から信じておられたのですね。自分を信じてくれる人の存在は心の底にエネルギーを湧き出させてくれます。それは長い歴史の中でも変わらない大切なことですね。

    子育て真っ最中の時は「子どもって自分自身じゃないから難しい・・・」と話していたものですが今は「自分自身のことでも難しい時がある・・・」って思います。
    樹木希林さんの言葉を参考に自分自身を我が子のように眺めてみれば良い方に進んで行けるように感じました。有難うございました。

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    1. MOONさま

      おっしゃっているように 法然上人のように、”そのままでいい” と人を信じ、赦しの法は人の心にエネルギーを、湧き立たせてくれますよね。そこに愛を感じるからでしょうね。

      そうですね。ほんとうに自分自身を変えることこそ大切ですが、これも実はとても難しい。自分自身への無意識の制約に気づき、頑張り過ぎないで、ものごとを面白く愉快に捉えて、そしてへこまないで生きていく! 希林さんのフレーズは心に届きますね。

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  2. 法然上人のおおらかなお言葉にこころを打たれました。
    がんばることがよいことで、がんばろう!がんばってと自分にも子供たちにもたくさん言ってきたなあと今までの自分を振り返りました。

    がんばってきたから今の自分があるとも思えますが、もっと自分にも周囲の方々にも、がんばらないでいいのよ、と言えたなら、本来のパワーをもっとだせれるなあと思いました。好きなこと、自分のこころから望むことをしている時は疲れないし、ワクワクしてこころが喜ぶのを感じます。
    先日会社で休みを取って、夫と旅行をしました。ふたりで自由にすきなところに行って、すきな物を食べてとても楽しい時をすごしました。

    一日会社を休むことにはじめは、少し周りに申し分けない気分になりましたが、自分で仕事の段取りをして、休むことでこんなにゆったりとした気分になれることに実感しました。ありがとうございました。

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    1. ももこさま


      おっしゃるように私たちは “頑張ることが一番大切なこと”…と自分にもプレッシャーをかけていたし、子ども達にも伝えてきましたよね。

      ももこさんの「頑張ってきたから今の自分があるとも思います」…のメッセージに同感です。”がんばらないがんばらない”…は多分、頑張って人生を生きてきた人たちへのエールだと思いますよ。

      頑張ってきたからこそ 法然上人や、ひろさちやさんの言葉が身にしみてくるのだと思います。でももう私たちはあまり頑張り過ぎないで、生きることを感じたり、人生を味わって生きるひとときをいっぱい持ちたいですね。

      ご主人とご旅行を! やりましたね! 頑張って生きていらしたことへのご褒美にもなりましたね! しみじみとお幸せ感が伝わってきます。有難うございました!

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