2018年12月20日木曜日

失ったものより、今あるオトクを捜すようにしてるの。他人(ひと)とくらべずにね

失ったものより、今あるオトクを捜すようにしてるの。
他人ひととくらべずにね
樹木希林
Column 2018 No.67

 今年9月、75歳で逝去した樹木希林さんのフレーズです。彼女の死後、テレビ・映画では、彼女を追悼する番組が毎日のように流れ続けました。先日彼女の出演した邦画「日々是好日」を観に行きましたが、どの時間帯も満席で、それは初めての経験でした。

 彼女は全身癌に侵されながらも、最後まで、女優として演じ遂げた奇跡的な人でもありました。実に演技のうまい役者さんで、沢山の賞も獲得しています、私は以前から好きな女優さんのひとりですが、ここまでフアン層の広い、人気女優さんだったことをあらためて認識したのでした。  

 普段の彼女は、さらりと含蓄ある冗談を言い放ち、自分自身を下げることも上げることもなく、それは役を演じるときも同様で、多くは脇役でしたが、普段着の彼女のままで語り、演じていました。得難いキャラクターの持ち主だったと思います。たまたま数年前の「リビングひろしま」紙に、希林さんが取材されていて、その記事を手元にもっていました。その中で彼女が語った一文です。

「…年寄りになると、病気もするし、目もよく見えないと、不自由も増えて、薬やメガネ…と、必要なグッズが増えてくる。だから私は洋服やモノをなるべく減らそうとしていて、不自由さも面白がろうと思って。そこは徳江さん(映画「あん」の役)とギャップが無かったね。白髪も染めるのは勿体なくて、白髪を生かしたパーマをかけたのよ。わあ、こんなこともできなくなった…じゃなくて、面白い発見にしてるの…」

 その記事によると、彼女はマネージャーも雇わず、化粧品も持たず、バスやJRを利用して遠いロケ地にも一人で出かけていたという。

「…ジバングに入っているからJRの料金が3割引き…。こんなこと、他の女優さんは知らないんじゃない?ホントは私も“女優”然としたいんだよ~(笑)でも、ならないねえ。私は徳江さんのように草木に耳を澄ましてその声を聴くような豊かな感性もないし、耳を澄ましたら耳鳴りしか聞こえない…」

 希林さんの発する言葉は、実にスマートで、ユーモラスで、彼女なりの哲学があって、それを大切に生きてきたことが伝わってきます。他者を恐れず、自分にとっての真実を、堂々と生き、語っていたような気がします。その結果、真実を見抜く目を持っていたので、ある面、多くの人を怖がらせたようです。

「…私は、自分勝手で、決して周りに媚びないけど、欲はあるの。すべてをそぎ落として、力を入れずに、スクッと立っていたい欲…。人間として見栄は必要と思うけど、人と比較したり、他人に張るんじゃなくて、自分に張ることじゃないかしら…」

 私にとって、彼女の死は「スクリーンの巨星墜(お)つ…」の感があります。彼女独特の持ち味でさらりと演じ、味わいある光を放ち続けてきました。女優としての希林さんに、私が魅力を感じるのは、彼女は決して周りに媚びず、自分軸がブレることが無かった人のように思えるからです。

 こんな彼女が大好きだけれど、しかし不思議ですが、私が彼女のようになれる…とは決して思いませんし、また、なりたいとも思わないのです。私は希林さんとは全く違ったスタンスで生きています。髪も染めて、しっかりお化粧をして、イアリングなどもつけて、自分なりに納得できるお洒落をして人さまに会うし、仕事にも行きます。その方が、今の私にとっては居心地がいいからです。

 また遊びを大切にしていて(私もジバングに入っています)私も大抵はひとりで、行きたいところに行くし、自分にとって心地いいことであれば、惜しげもなくお金も使います。“自分勝手で周りに媚びない”…あたりは希林さんと一緒ですが、結構、周りに気は遣っています(笑)希林さんのように“すべてをそぎ落として…”の、心境にはまだまだ遠い気がしています。

 どんなに素敵な人を見ても、決してその人にはなれないし、なる必要もないでしょう。価値観の違いはどうであれ、希林さんのように、自分の信じるところを、凛として生き切った生き方を、私は見事だと思うし、とても好きでした。違いは違いのままで、自分の軸をブレさせないで生きている人は、やはりとても魅力的に思えます。

 私もさらに自分軸を大切にして、“誰とつきあうよりも…私がわたしとつきあって幸せな気分”…で、いられるような日々を、これからも過ごしていきたい…と思っています。

絶えずあなたを、何者かに変えようとする世界の中で、
自分らしくあり続けること、それは最も素晴らしい偉業である
エマーソン

*次回のコラムは1月20日前後の予定です。

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4 件のコメント:

  1. 先生にコラムを読ませていただいた日にラジオで樹木希林さんのことをお話されている番組を聞き、なんと自然体で生きてこられた方なんだろうと感じていました。私は「あん」の映画を以前見にいきました。自分の置かれた場所であんをつくる樹木希林さんの映像に無心にものを作る姿に感動しました。周囲を見渡せば、媚びを売っている人 以前はなんていやな人なんだろう・と不機嫌な私がいました。けれど最近はあーこの方はこんな風に生きているんだなあ・・と少し遠くからみれるようになったのは親業を学んだ大きな変化です。私がわたしとつきあって幸せな気分でいられる・・・なるほど! 今日は仕事で落ち込むことがありました。落ち込んだ自分の気持ちに正直に、コメントをかいていたら、私がつきあいたい私にもうすぐなれる気がしてきました。ありがとうございます。

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    1. ももこさま

      返信が遅くなりました。コメント有難うございました!

      周りに媚びることなく、あの自然体で、人生を生き切った希林さんのことを、ももこさんもとても共感していらしたのですね。映画「あん」も、希林さんにぴったりの役柄で、見応えありましたね!

      なるほど…。今 ももこさんは、これまでは不愉快だった、周りに媚びて生きている人を見ても、「ああ 今、この人はこんな風に生きているんだなあ…」と価値判断しないで、客観視できるようになられたんですね。楽な気持ちになられましたね…。

      仕事で落ち込むこと お互いにありますよね…。おっしゃるように、そのしんどい気持ちに正直にいてあげると、これが 今の私なんだな…私はわたしでいいんだな…と、何となく思えてきますよね。世の中で 一番 ももこさんを理解してくれている ももこさんがいる…と 心強く思える。…こんなひととき「私が わたしといて しあわせなひととき」…と、言えるのではないでしょうか。有難うございました。

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  2. 私も映画「あん」と樹木希林さんのプライベートを紹介した番組を見ました。
    「あん」は小豆に話しかける場面がとても示唆的で・・・目に見えない物、事の大切さを再認識させられ、希林さんでないと伝わらないとも思いました。

    どんな素敵な人でも、好きな人でも・・・その人になろうとすると今の自分のいいところがなくなってしまうと思います。

    「絶えずあなたを、何者かに変えようとする世界の中で、自分らしくあり続けること、それは最も素晴らしい偉業である」このフレーズも素敵ですけど・・・

    “誰とつきあうよりも…私がわたしとつきあって幸せな気分”先生のこのフレーズがすごく気に入りました。来年はこれを胸に過ごしていきます!有難うございました。

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    1. MOONさま

      いつもコメント感謝です。

      MOONさんも「あん」をご覧になったのですね。おっしゃるように、小豆に話しかけたり、自然の草木の声に耳を澄ませたり…。自分の気持ちに正直に生きる希林さんだからこそ、「あん」の徳江さんの役柄が、見事に演じられたのだと思います。

      おっしゃるように、素敵な人に憧れて、その人になりたいと思っても、決してなれないし、なろうとすると自分軸が知らず知らずブレてしまいますよね。その意味でも希林さんは自分を信じて、自分の人生を凛として生き切った人で、とても魅力的な人でしたね。

      「誰とつきあうよりも、私がわたしとつきあって、しあわせな気分…でいれるような日々を…」のフレーズが、MOONさんのお心に届いたようで、とても嬉しく思いました。有難うございました。

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