2026年10月20日火曜日

「自分軸」にゴールはなく進化成長していくもの

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Column 2026 No.158

 近年、「自分軸」をもつことの重要性が認識されるようになってきました。
 「自分軸」とは、他者や世間の一般論に左右されず、自分自身の信念・価値観で生きることが出来、自分の人生の決定権を自分が持っている状態です。しかし「自分軸」の真の意味を理解しないままに、他者の意見に耳を傾けず、「自分軸」を意固地に生きている人も、中にはあるのではないかと思われます。

 実は「自分軸」は固定した不動のものではなく、人の成長と共に、形や姿を変えながら、進化成長していく柔軟性のあるものなのです。従って、人の成長段階によって「自分軸」の姿も変わってきます。今回は、ドイツの精神分析家であるE・H・エリクソンが提唱した、人の「発達段階理論」を参考にしながら、「自分軸」の成長を照らし合わせてみたいと思います。

 エリクソンは、人の一生を8つの時期(乳児期・幼児前期・幼児後期・学童期・青年期・成人期・壮年期・老年期)に分けてそれぞれに“心理的課題”があるとして、それを明らかにしました。

 各段階で、それら課題を適切にクリア出来れば、次の成長段階のステージに進むための心理的な力を獲得できると提唱しています。一方、課題への対応が不十分な場合は、自己肯定感の低下や対人間関係の不安定さなど、後の成長にネガテイブな影響を及ぼす可能性が大きい…と述べています。各段階において述べられているこの“心理的課題”をクリアしていくことで、「自分軸」は同時につちかわれ成長していくもの…と、私は理解しています。

 ここで、エリクソンの述べる各時期の「発達課題」を見ていきましょう。

 まず乳児期の発達課題は「基本的信頼の形成時期」としています。保護者の愛情深い対応を通して乳児は、周囲の世界は、自分のとって安全で信頼できるものとして認識します。この段階では、無意識の中で乳児は「自分軸」の成長の基本となる“愛されている”“自分には価値がある”という“基本的自分信頼”の精神を学びとっていく重要な時期となります。

 次の幼児前期・後期の課題は「自立性・自発性の確立」です。子供に自我が芽生え、この年齢なりの「自分軸」があって、すべて自分でやりたいという気もちが出てくるので、保護者にとっては結構難しい時期です。先回りして手を出したり、干渉しすぎると、子どもの怒りをかって「いやだ!いやだ!」の反応をします。しかし“いやいや”をやりながらも、親に、ある程度許されたり、或は軌道修正されながら、「自分軸」の構築が進んでいきます。一方、この時期に子どもの失敗を強く叱ったり、過度に管理すると、「自分軸」の重要な要素である自己価値感・自信が損なわれやすくなります。

 次の学童期の発達課題は「勤勉性」です。学習や集団活動に取り組み始めます。この時期には勉強やスポーツ、遊びの中で達成感や成功体験を重ねることで“自分はできる!”という有能感を育んでいきます。「自分軸」が幅を持ち、より成長していく時期です。一方、親の価値観を押し付けすぎると、他者を過度に意識した生き方に傾いたり、自分の信念つまり「自分軸」に揺らぎが生じます。

 こうして乳児期から学童期に至るまでは、親の係わりが必要な時期でもあり、親の係わりの如何によって、子どもの「自分軸」の成長は大きく異なってきます。

 次の青年期の発達段階は「自我同一性の確立」の課題に入ります。いわゆるアイデンテイの確立とも呼ばれ、“自分は何者なのか”“将来どうなりたいのか”を模索し始め、自己理解が深まる一方で、さまざまの葛藤を抱える時期でもあります。こうした中で「自分軸」を支える価値観や信念…等が豊かに育まれていきます。この時期、親は過度の干渉を控え、子供の考えを尊重し信頼して見守る姿勢が必要になってきます。ほぼ「自分軸」が確かなものになってくる時期でもあります。

 次の段階の「成人期」の課題は「親密性の形成」。「壮年期」は「生産的役割の達成」。「老年期」の課題は「自我の統合」、つまりこれまでの人生の経験を統合し、肯定的に受け入れていく段階です。これらの過程を踏みながら、「自分軸」は、一人ひとりの個性的な生き方の中で色々な発達過程を見せます。

 ここで、「自分軸」の成長過程を纏めてみましょう。

* 自分中心の「自分軸」で生きている段階

 特に乳幼児期は無意識に、この段階を生きています。しかし大人になってもこの段階に留まっていて、いわゆる自分勝手に生きている人はあります。

* 周りを意識し、どう見られるか「他人軸」で生きている段階

 人に嫌われないようにしよう
 親が喜ぶことをしよう
 相手が望むことをしよう…等々

 幼児期からの親の接し方で、多かれ少なかれ、周りの人々を意識して、自分を大切にするよりも相手を大切にして生きることを学んでいます。

* 自分に向かい始める「自分軸」の段階

 他者がどう思うか…から“私はどうしたい?”と意識が自分に向かう段階に入ります。メッセージも自分が主語になってきます。「私はやりたくないです」「私はこう考えています」「私は今回は行きません」…。こうして自分の気持ちに正直に生き始め、徐々に真の自分を取り戻し「自分軸」を再構築していきます。精神的な自立の始まりで「自分軸」がより個性的で豊かに成長していく段階です。

 特に子ども時代から“親にとって都合のいい子”をやってきた人は、「自分軸」がかなり軟弱な状態です。これまでの人生でやり損ねてきたこと、いま本当にやりたいこと、心が喜ぶことをどんどんやって、少々“わがまま”と思われることでもやりたいことは果敢にやってみることで、自分を取り戻し「自分軸」は、かなり確かなものになっていきます。

* 如何なる人生も肯定的に受け入れ、「自我を統合」していく段階

 これまで各時期のステージを、適切にクリアしてきた人はスムーズに“自我の統合”に進みます。ところが、老年期は徐々に身体も弱り、その上人生に後悔が多いと、絶望感や孤独感・虚無感に陥りやすくなります。言わば、人の人生の中で最も厳しい時期でもあります。しかし、これまでの人生を振り返り、如何なる人生であろうと、ただ受け入れていくことで、その人なりの“人生の意味”を見い出していきます。

* 自分も相手も大切にできる成熟した「自分軸」の段階

 相手に合わせることではなく、自分を大事にしながら相手も尊重していける状態です。もっともこの段階に至る人は、意識しないでも自分も相手も大事にできます。なぜなら自分の気持ちを正直に感じて正直に行動してきたことで、自分に対する真の自信・自己価値感が確立しているからです。自分軸が起動した上での他者との共存が可能な段階です。

 そして心理学者マズローのいう、自身の奥にある高次の自分、良心の源泉とでも言えるかもしれませんが、“神聖な存在”があることを意識化しつつ、自分の気持ちを日々できるだけそこに仕切り直しをしながら生きてみる。その結果、「自分軸」は、年齢に関係なく自己理解が深まって、更に柔軟性のある“成熟した「自分軸」”へと、無限に成長していくのです。

*次回のコラムは2026年11月20日前後の予定です。