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Column 2026 No.149
「我がままを言っていたら幸せになれないよ」
「自分よりもまず人のことを考えなさい」
「お前が考えているほど人生は甘くないんだよ」
「好きなことばかりして生きれると思いますか。人生で大切なことは努力と忍耐です」等々。
これらは私たちが育ってきた時代に、親や先生からよく伝えられていた価値観の一部です。これら価値観の多くはその時代の背景や社会規範などから来ています。実は親も先生も私たちを不自由にするためではなく、当時の環境の中で、私たちが無事に生き延びていけるよう伝えられた愛情が底辺にある価値観だったのだと思います。しかしこれら価値観は今の自分に本当に必要なのか、ひょっとすると自分の人生を不自由にしているのではないかについて検証してみる必要があります。
その考えはあなたを守ってくれたかもしれない。
だが、自由にはしてくれなかった
作者不詳
現代の世情では「自分ファースト」のフレーズが通じる世の中になってきました。一般社会にもそれら価値観が徐々に受け入れられ、先ほど挙げた価値観が次のように変容してきているのです。
「わがままは“我がまんま”へのプロセスです」(コラムNo121)
しかし私たちは、新しい価値観に納得はしても、子ども時代から伝えられた価値観はしぶとく自身の中で起動していて、その刷り込まれた価値観から抜け出すのは容易ではありません。私の時代ですらそうですから、私たちの親達が生きていた時代はもっと強い縛りがあったのではと思います。私の父の例をお話します。
子ども時代の私の家族は大家族で、公務員であった父が、その大家族を一人の働きで賄ってきたわけです。やがて私は結婚して、父を時々我が家に呼んで(母は早く亡くなりました)もてなしていました。ある時、父がポツリと私にこんなことを言ったのです。
「あの大きな所帯の家族を明日は食べさせていくことが出来るだろうか…と思って、夜眠れない日がたびたびあった…」と。その言葉は私にとってはまさに青天の霹靂でした。父はその頃、生活のことで愚痴をこぼしたことは一度もなく、子どもから見るといつも太っ腹の父に見えていたのです。その父から初めて聞く弱音の言葉でしたので、とても驚いたのです。
私は咄嗟に言いました。「お父さん、あの頃おばちゃん達はみんな働いていたし、おじいちゃんも医院を開いていて豊かだったよね。どうして助けてもらわなかったの?」と。それに答えた父の言葉に、私は再び驚き、ショックを受けたのです。「おまえのお祖母ちゃん(父の母親)が、いつも言ってたんだよ。“茂!(仮名)お前は長男だ!家庭内にどんなことがあっても、世間にしっぽを(本当の姿を)見せるでないぞ!”とな。お父さんはお祖母ちゃんをとても尊敬していたから、その言葉を宝のように大切にしていたんだ…」と。
あんなに雄々しく見えていた父が、親の価値観に縛られて、世間ばかりでなく自分の家族に対しても、しっぽ(本音)を見せられなかったのです。どんなに苦しくても決して弱音を吐かず、つまり誰にも助けを求めず、一人で頑張り、生活と闘ってきたのです。私は父が愛おしくて泣いてしまいました。
ひよこは卵から出ようと闘う。卵はその鳥の世界である。
生まれようと欲するものはひとつの世界を破壊しなければならない
ヘルマン・ヘッセ
壊すのは自分を守ってきた不要な殻ですが、父は自分の母親を尊敬しているという理由で、母親から伝えられた価値観を、何ら疑問を持たずに踏襲し、それを壊していいのだということにも気付かなかったのです。父は随分前に亡くなりましたが、生前、時に不機嫌だったり短気になったりしていた理由がその時、真に理解できたのでした。
この父の価値観が間違っていたとか、合っていたとかの視点で判断はできませんが、この価値観を守ることが、“父自身にとって不自由ではなかったのか” “本当に自分や家族の役に立っていたのか”…を、自分軸の視点で検証して、そうではないと思うなら潔(いさぎ)よく手放してよかったのです。
今回のタイトルは「価値観を卒業する」としていますが、“卒業”は否定ではなく感謝して役目を終わらせることだと思います。よってそれに後ろめたさは要らないし、人として当然の考え方です。
余談ですが、この父の事例を年配の方が多い講演会で時々話していました。結果、特に年配の方からは大きな反響があり、「お父さんをそんな風に見たら気の毒ですよ。私にはお父さんの気持ちが凄く解かります」といった反応が多かったのです。価値観は時代背景が大きく影響しているんだな…ということが、ここでも明確になったものでした。父の時代は、生きるのにまだ大変な時世で、家族を守るために、自分よりも親や周りの人々のことを先行することが、何より大事だったのですね。
しかし、どんなに偉い人が伝える価値観であろうと、これからの時代背景がどう変わろうと、大切なことはやはり自分自身が “自分の心と魂が納得する価値観” を生きていくことだと思うのです。親業が大切にしている “自分大切そして相手大切” の精神を踏まえつつ、価値観の置き所をどこにするのか、実はその答えは、自分だけにしか解からないのです。
その為には更に自分自身の感度を信頼して生きていきたいものです。何故ならあなたの人生に関する答えは、必ずあなたの中にあるのですから。
*次回のコラムは2026年2月20日前後の予定です。
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